「ここきち」応援団

農家レストランは、都会と田舎の汽水域。 自然の中でのひとときが、人間本来の力をよみがえらせてくれます。

--校長を務められている「森と湖の楽園」とは、どのような施設なのでしょう?
 森の中で、自給自足の自然暮らしを体験できる場所ですね。畑を耕したり、魚を獲ったり、火をおこすところから始めて調理したり、森の木を切って家を作ったり…。自然の中での暮らしを思いっきり感じられるのはもちろん、これから田舎暮らしを始めたい人にとっては訓練所にもなるんですよ。
 僕らはこの楽園を、海水と淡水が混ざり合う「汽水域(きすいいき)」のようなところだと思っています。都会と田舎のちょうど間にあって、ここで自然に慣れて、自然の心地よさも厳しさも存分に心と体に刻む。そして、人間が本来持っている機能を目覚めさせる。たとえば、人間と猿の違いって何だと思います?そのひとつが、火をおこせるか否かということ。自然の中で火をおこせない奴は、猿ってことなんですよね(笑)。
--自身も楽園内にお住まいの清水さん。自然暮らしをはじめたきっかけは何ですか?
 福井の山奥で生まれ育った経験、そして父親の影響が大きいですね。
 農業や林業で生計を立てていた父。馬に乗って畑を耕したり、川では信じられない速さで魚を釣り上げていた。で、夜は釣った魚を自分でさばいて囲炉裏であぶり、それと一緒に大酒をかっくらって、ガーッと寝ちゃう(笑)。冬は銃を抱えて雪山に入って、熊を抱えて戻ってくるなんてこともありましたね。とにかく豪快で、父のやることすべてがカッコよくて、「オレもこんな男になるんだ!」と思っていたんです。
 大学生以降、僕は都会暮らしが長かったのですが、ある日これから先何がやりたいのか?どう暮らしていきたいか?と自分を見つめたとき、心をよぎったのが幼い頃の風景。自然とともに暮らしていた日々、そして鮮明な父親の姿があったのです。
 父はすっかり歳をとってしまったけれど、今でも魚釣りの名人。僕も釣りが大好きなのですが、なかなか追いつけないんですよ。
清水国明さん
--そんな清水さんの『こころのキッチン』とは?
 父が毎年、素材の調達から調理までして送ってきてくれる、「あじめ寿司」ですね。あじめというのは、どじょうのような川魚。これを獲るのがまず難しく、さらに押し寿司にして発酵させるという作り方も難しい。福井の郷土料理なのですが、今ではとても貴重になってしまい、物産展などでは1本1万円なんて値段がつくものなんです。フナ寿司とよく似ていて、すっごくニオイが強烈。なので都会の人にはなかなか受け入れられないのだけど、僕にとっては何ものにも代えられないごちそうなんです。
--『ここきち』および農家レストランに期待することはありますか?
 素材も調理も、作った人の顔が見える。食べ物が口に入るまでのブラックボックスがないのって、すごく安心ですよね。これを実践できるのが農家レストランの魅力だから、地産地消や郷土食に徹底的にこだわってほしい。それから農家レストランも、都会の人にとっては田舎と交わることのできる汽水域ですよね。食の提供だけじゃなく、農業体験ができるところが、もっと増えてくれるといいなぁと思います。
 「ここきち」については、そうですねぇ…たとえば、不自然という言葉がありますよね。自然じゃないことで、人の心や体にはいろんな悪い影響が出てきていると思うんです。自然の中にあって、その恵みを生かしている農家レストランとのふれあいは、都市で暮らす人を癒すとても大切な時間。だから「ここきち」には、何か都会の人が気軽にアクションを起こせるような、農家レストランにどんどん足を運びたくなるような仕組みづくりを期待しますね。
 あと、あじめ寿司を出してくれる農家レストランって、ないですか?あったら、速攻で出かけちゃいますよ(笑)。
清水国明さん
profile
清水国明(しみず くにあき)
1950年・福井県生まれ。1973年の京都産業大学在学中、フォークソング・デュオ「あのねのね」で芸能界デビュー。芸能界きってのアウトドア派で、1995年にはアウトドアライフネットワーク「自然暮らしの会」を主宰。2005年「株式会社自然楽校」を設立し、山梨県河口湖にアウトドアパーク「森と湖の楽園」を開園。校長を務めるとともに自身も家族でこの楽園内に住み、スローライフを実践中。

「森と湖の楽園」
http://www.workshopresort.com/
この施設のテーマは、「自然とのふれあいを通じ、都市生活で忘れてしまった人間本来の機能を目覚めさせ、心と体の健康を取り戻すこと。そして、子どもたちの生きる力を育むこと」。
清水国明さん