

1981年、長野県生まれ。2005年大学卒業後、飲食業、Web系広告代理店を経て、26歳で起業。2009年にNPO法人 ハタケティブ協会を設立、代表理事に。CSRコミュニケーションデザインの企画・制作、農業系イベント・ワークショップの企画・運営など、「社会と企業/人のコミュニケーションギャップをなくす!」をテーマに活動中。デザインコンサルティング会社・株式会社ポイントのCo-Founder兼任。




日本の食の風景「こころのキッチン」を守り、育てて行くために、様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。今回は、「人と人をつなぎ、農業と社会をつなぐ」をミッションに、企業・非営利団体との協業イベントや、中高大学生との農業ワークショップ、農的CSRのサポートなどを中心に活動しているNPO法人 ハタケティブ協会 代表理事・安藤光展さんにお会いしてきました。
ハタケをもっとアクティブに。
3本柱の事業で、人と農をつなげる。
「農業とは縁のない人々や企業」と「農業」をつなげることにより、新しい形のコミュニティを形成するとともに、「農」に関わる母数が増えると考え、2009年8月に農業支援NPO法人「ハタケティブ協会」を設立しました。
2008年頃から耕作放棄地問題が頻繁に取りだたされるようになりましたが、次世代に豊かな社会を残すためには、まず畑の有効活用が必要です。畑をアクティブにすれば、農業人口問題や農業における社会問題に対してアクションしていく人が増える。そこで「畑(ハタケ)をもっとアクティブに使おう!」という考えから、ハタケティブと命名しました。
事業内容は「イベント事業」「マーケティング事業」「レストラン事業」です。
まずイベント事業では、「アグリソーシャルエンターテイメント」をテーマに、農・食と関連したイベント、セミナー、ワークショップ、交流会の開催をしています。具体的には数名で行う農業体験という小さな規模から、農フェスなどの大掛かりなものまで含みます。これまでの最大規模は、昨年11月に日比谷公園を貸し切って行った「ファーマーズ&キッズフェスタ2010」で、2日間で6万人を動員しました。ハタケティブ協会が主催ではないですが、いろんな企業や団体がタッグを組み、一実行委員として運営に携わらせていただきました。第1回としては大成功を収めたと言ってもよいのではないかと思います。僕自身も学びの多いイベントになりました。
ワークショップやセミナーも大切なイベントで、自分たちが日本の農業にどのように貢献したらいいのか、ディスカッションを通じて農と食を考えるという活動をしています。僕らがすべきことは「食卓に農のある会話」を増やすこと。イベントの参加者が家族や友人と農業について話し合ってくれたら、僕らとしては大きな一歩ですね。
マーケティング事業では、農・食に携わる企業のCSR(注1)活動サポートや、「食とCSR」をテーマにセミナーを行っています。農業ビジネスを立ち上げたい企業に対してはヒアリングやワークショップを、農家に対してはマッチングを試み、互いが歩み寄れるようなアドバイスとコンサルティングをしています。
レストラン事業に関してはスタートしたばかりですが、こちらもたとえば生産地や生産者の顔が見られるような、農業に焦点を当てた店を一店舗でも多く応援、運営していきたいと思っています。
(注1)Corporate Social Responsibilityの略称で、「企業の社会的責任」という意味。

NPO法人 ハタケティブ協会 代表理事 安藤光展さん

日本全国から農業者が集い、おいしい農産物と話題の郷土料理の販売を行う日本最大級の農フェス「ファーマーズ&キッズフェスタ2010」。めったに見られない大型農業機械の展示や動物とのふれあい、農業体験や食育・農育ワークショップなどを儲け、子どもと農との未来への架け橋となることが目的。第1回は2010年11月に東京日比谷公園にて2日間に渡って行われ、約6万人を動員した。
日本の農業の未来を考えるとき、
絶望もシェアするが、希望もシェアしたい。
もともと飲食系の会社でサラリーマンとして働いていて、食に興味があったのです。そのうちに「将来は畑を持って農業をやってみよう」と思うようになり、畑について調べたところ、人から畑を借り受けて運用するのは実は法律違反であることを知った。驚くべきことに、農業は60年ほど前の法律をいまだに運用しているんです。これはおかしいだろうと危機感を持ち、日本の農業の実態、状況をもっと多くの人に伝えるために、NPOを始めることにしたのです。
ビジョンとして、2020年8月31日までに83.1万人に食と農の大切さを伝えるという「ビジョン2020」を掲げています。83.1万人、8月31日というのは、野菜(やさい)にひっかけて決めた数字です。
とにかく1人でも多くの人に食と農に関する想いを伝えたい。「あなたが見たいという変化に、あなた自身がなりなさい」というマハトマ・ガンジーの言葉があるのですが、文句を言いつづけても世界は変わらない。「農業」は近年、政治のツール・政策でしかありませんでしたが、それに文句を言う前に行動すべきだと。
というのも、農業就業人口ってものすごい速さで減っているんです。農水省のデータによると、2005年から2010年の5年の間で75万人減って、現在はたったの260万人。単純計算で、5年おきに80万人が減ったとして、あとたった15年ちょっとで日本から農業をする人がいなくなってしまう。数千年もの間、営んできた日本最古のビジネスとも言われる農業が、ここまで廃れてしまうことって怖くありませんか?
もちろん農業法人や半農されている方々がいるのでゼロにはなりませんが、先進国で農業人口がゼロになり得る国というのは日本以外にはない。日本の全人口が減り続けている、子どもの数が減っている、それより先に、農業就業人口に関するXデーは間近なんです。
農業は英語で「アグリカルチャー」、文化(カルチャー)という言葉が入っています。日本においても文化的背景が色濃く残っている珍しいビジネスであり、これが失われるという危機的状況に対して、もっと国民全体で考える機会を持たなくてはいけない。
ただし、農業コラムニストやマスコミのように「農業は危ない」としか言わないのでは仕方ない。大勢の人が農業に深く関心を持つようになれば、農業就業人口は仮に数千人になったとしても、週末に農業をしたり、ライフスタイルに農業を取り入れたりする人が増えると思う。現在100万人いると言われるそのような人たちが、今後200万、300万と増えていけば、農地のすべてが荒れるわけではないですから。
物事というのは未来に向かって行くわけで、未来に種を蒔かないといけません。絶望を伝えることは現実を知るという意味で重要だけれども、それより必要なのは、希望を共有していくことです。「世界は終わりだ、日本経済の破綻は間近だ」と言うのは簡単。僕らは過去の先人たちの知恵や実績の上に生活を成り立たせているということを忘れず、未来のために何ができるかを日々考えるべきだと思います。

株式会社ポイントはCSRセミナーを定期的に主催している。写真は2010年10月の「食×CSRで世界を変える!セミナー」。参加者の関心は「農業とCSR」「マネタイズできるCSR」などで、講演とディスカッションで大いに盛り上がりを見せた。

社会問題と向き合い、ディスカッションをしながら、愛を語る合コン「Social Cafe(Produced by 新しい合コン円卓会議)」も定期的に行われている。写真は2010年11月に虎の門で開催されたSocial Caféで、23名の男女が参加した。
変化を受け入れることが、
未来に生き残っていく術である。
「食」というのは人間の三大欲求のうちのひとつで、興味があろうがなかろうが、必ず生きるために毎日していること。誰しもが自分事として考えられることなんですよね。僕自身、このNPOの活動で学ぶことがたくさんあり、本当におもしろくてたまらない。それがいまのモチベーションになっています。たとえば「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」代表理事の宮地勇輔さん(http://www.cocokichi.jp/people/miyaji_yusuke.html)と会うと、彼は「オレは農業をしない農家だからね。これからこういうの流行るよ」と言うんです(笑)。流行るかどうかは別にして、そういう異種な存在が出てくるのはすごくおもしろいことだと思う。農業をしない農家が増えたっていい。なんでもいい、もっと農業がおもしろくなればいい。エンターテインメント性と言いますか、敷居を下げるということが必要ですし、宮地さんと僕のように方法論が別であっても、行き着く目標は一緒ですから。 TPP(注2)に関しても、個人的にはどちらでもいい。それは国が決めることで、僕らではどうしようもない。であれば、一事業主として、また農業に関わる人間として、今後どうしていくのかを考えるべきです。
たとえば1000円の外国産の米に対して、うちの米は3000円であると言うなら、3000円の価値をきちんと伝えないといけない。高い野菜や米が売れないのではなく、農家が売ろうともしていないし、消費者も買おうとしていない、そこにコミュニケーションギャップがあるということが問題なのです。まずはそれを改善しないといけない。
議論することは重要ですが、そこから世の中が変わることはないので、未来に対してどうするのか、マーケティングとブランディングをどうするのかということを話し合うのに時間を割いたほうがいいと思う。たとえばオランダは日本の農業人口も農地面積も約4分の1で、日本の農産物輸出の約30倍も売っているという事実をご存知ですか。長野県で長年ひたすら白菜だけ作っていて、JAに卸して、それは素晴らしいことかもしれないけど、世間の波に乗り遅れてはどうしようもない。
『進化論』の著者チャールズ・ダーウィンは「生き残るのは強きものではなく、変化できるものである」と書いています。日本は世界一老舗が多い国。ビジネスモデルは変わらなくとも、時代に合わせてエコを取り入れたり環境に対応する製品を作ったりして、自ら変化を受け入れ生き残ってきた企業がたくさんある。ここにも学ぶべきヒントがあると感じています。
僕にとっての「こころのキッチン」は、母親の味ですね。食というのはやはり慣れであり、習慣であり、日々の食卓から生まれてくる歴史であり文化だと思う。生まれてから18年という長い年月、母のご飯を食べていたわけで、こころの中にはいつもその食卓の思い出があります。皆さんの食卓、こころのキッチンで農の話が飛び交う世の中になるよう、これからも頑張っていきたいと思います。
(注2)Trans-Pacific Partnershipの略称。環太平洋戦略的経済連携協定。加盟国間の経済制度、即ち、サービス、人の移動、基準認証などに於ける整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃をめざしている
(2011/1/14)
農業応援NPO法人「ハタケティブ協会」ホームページ
http://hataketive.org/


2010年8月に行われた農の夏フェス「ナイトアグリカフェ」。「収穫×BBQ×古民家」をテーマに、農業体験、花火、収穫した野菜でBBQなど20代の男女20人近くが参加。「農作業を体験すると、スーパーで野菜を見る目が変わります」と安藤さん。今年の夏も開催予定。