「ここきち」が選んだ旬の人にお話を伺いました。

地場産品提供店を応援することは、 日本の食文化の素晴らしさを 伝えることにつながります。

1971年、千葉県生まれ。都内レストランで調理師、店長を歴任後、会計業務、経営企画など歴任し独立。デザイン設計とともに飲食店の運営指導を行う。現在まで、外食企業、飲食店経営コンサルタントとして全国で300店舗以上の店舗開発を行う。雑誌での執筆なども多数。「緑提灯」運動の趣旨に感銘を受け、ボランティアとして運動をサポートする事務局メンバーとしても活動している。
小島由光さん(株式会社スーパーソニック)
日本の食の風景「こころのキッチン」を守り、育てていくために、
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
今回は、外食企業・飲食店経営コンサルタントとして活躍する傍ら
日本の食料自給率アップと地産地消を推し進めるため
「緑提灯」の活動メンバーの一人としても活動を続ける、小島由光さんにお話を伺いました。

「うちの食材は、国産何%以上だよ!」
といつも言い切るようなお店を増やしたいんです。

 「緑提灯(みどりちょうちん)」運動は、お店で提供する食材のうち、日本産食材の使用量がカロリーベースで50%以上のお店を「緑提灯」でアピールしようという運動です。この活動は、日本の深刻な食料自給率の低下を憂慮し、その解決方法を模索するなかで2005年にスタートしました。コンセプトは「その土地の食材を扱うお店を応援し、“日本の食品自給率”を向上させよう」というもので、提灯に“国産品”ではなく“地場産品”としているのは、地産地消を進めたい考えからです。
 そもそもこの運動は、独立行政法人農研機構理事で中央農業総合研究センター所長でもある丸山清明さんが発案したものなのですが、丸山さんは北海道のある居酒屋に入ったとき、別の地域の食材が次々と出され、自然豊かな北海道でさえ地産地消がなされていないことに愕然とされたそうです。それは地域の利益流出にもつながってしまいますし。
 提灯には星印が付いていて、国産食材の使用量50%以上で星一つ、60%で二つ、70%で三つ、80%で四つ、90%で五つ、と自己申告で付けてもらっています。認証制度にしないのは、国産食材を使う店と認めた後、お店の食への意識が薄らぎ、形骸化しては意味がないという考えからです。「緑提灯」のお店には、「うちの食材は、いつも何%以上国産だよ!」と言い切るような心意気でいてほしいのです。カロリーベースで50%以上の国産食材を使うお店が増えれば、間接的に日本の食料自給率アップに貢献することができます。日本の食料自給率はカロリーベースで、5年前は39%、現在は41%程度。私たちは緑提灯のお店を増やすことで、それを50%に引き上げることを目標にしています。活動は、丸山さんの企画に共感したボランティアたちで進めてきました。私自身も、運動の趣旨に大変感銘を受け「是非参加させてください!」と申し出たのですが、以来「緑提灯」のPRのほか、ご要望に応じて加盟店の経営サポートなどもお手伝いしています。
小島由光さん(株式会社スーパーソニック)
小島由光さん(株式会社スーパーソニック)
緑提灯の“星”は、配布時には一つしか黒く塗っていない。あとは店主が国産食材を使用している割合に応じて、自己申告で黒星を付けていく

5000店の飲食店が50%以上国産食材を使えば、
食料自給率は格段に上がります。

 普及についても、当初は「緑提灯」の存在を知らないお店がほとんどで、「なぜ緑の提灯なんてつけるの?」とよく質問されました(笑)。食材原価率を考えれば、お店としては高い国産食材を使うより、どうしても安い輸入食材を使う道を選びがち。「緑提灯」をつけてくださるのは、そんな状況でも、多少コストはかかっても質の良い国産食材を使い、お客様に安心・安全を提供したいと考えている志の高いお店の方です。ただ「より良い国産食材を提供したい」という思いは持っていても、「食料自給率を50%まで引き上げたい」という趣旨はなかなかピンとこないようでしたね。そのせいか、参加店が100店に届くまでは、およそ3年近くかかりました。
それが中国産餃子による食中毒など食の安心安全を揺るがすような事件が立て続けにあった頃から状況が一変。「緑提灯」を紹介するテレビや雑誌の影響もあって、登録店舗はすぐに1000店を超え、現在も参加店は上り調子で増えています。「あっ、緑提灯って国産食材を扱っているお店だよね」などと緑提灯を知っている店主も多く、説明しやすい状況になりました。私も出張時には必ずどこかの小料理屋に入ってご説明し、緑提灯をひとつ増やすことを目標にしています(笑)。次回その店に足を運んだとき、店頭に「緑提灯」がついているのを見るとうれしいですね。できれば、私が灯した緑提灯を47都道府県に輝かせたいと思っています。
 いま全国の飲食店はおよそ50万店といわれていますが、もし、そのうちの1%、5000店に「緑提灯」をつけてもらうことができれば、私たちの当初の目標が達成されることになります。現在、2700店弱の店舗が「緑提灯」をつけてくれていますから、目標の半分に届いた計算ですね。
小島由光さん(株式会社スーパーソニック)

地域の食文化を紐解けば、先人の知恵、
さらには問題解決のヒントが見えてきます。

 一方、この運動には「緑提灯応援隊」というサポートメンバーが存在します。国産や地場産品を積極的に使っているお店を応援し、食料自給率アップを目指すためのボランタリー活動で、何をするかといえば「赤提灯と緑提灯のお店が並んでいたら、ためらわずに緑提灯のお店に入る」という任務だけ(笑)。消費者にもそんな遊び心で、緑提灯の活動を盛り上げてもらえれば幸いです。現在、緑提灯応援隊のメーリングリスト登録者数は3000人を超えています。口コミと、あとテレビを観た方の反応が多いですね。こうした活動も、2010年4月23日で五周年を迎えます。コンセプトが明確なので、さほど苦労した記憶はありませんが、提灯という和風の形態がネックになったことはありました。趣旨に賛同いただいても、さすがにフレンチレストランに提灯はちょっとミスマッチですからね(笑)。5周年に向けて、いま新たなロゴを募集し、「提灯」が似合わないお店でも気軽に参加できるよう、新たな表現方法を計画しているところです。

 「こころのキッチン」ですか? 私にとっては、長崎・五島列島の郷土料理“かんころ餅”を家族で食べている風景ですね。祖父がこの列島の出身だった関係で、子供の頃よく食べていました。輪切りにしたサツマイモを湯がいて天日に干し、餅と混ぜた冬季の保存食なのですが、これは列島に住む先人が育んできた食文化です。近頃、地方へ出張する機会が多いのですが、どこでも根底にあるのはこうした食文化だと感じています。その土地で取れる食材を使った地域の名産品があり、独自の食べ方や環境に応じた保存方法が語り継がれている。食文化の背景をたどり、その原点を見つめ直すと、地産地消の意義も実感できますし、現状への課題も見えてくるような気がします。これからも、緑提灯の活動、そして自身の仕事を通して、地域に根付いている食文化の素晴らしさを次世代に伝えていきたいと思っています。
(2010/03/15)


「緑提灯」ホームページ
http://midori-chouchin.jp/

株式会社スーパーソニック
http://www.supersonic-web.com
小島由光さん(株式会社スーパーソニック)