

1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、大手人材派遣会社に入社。複数の新規プロジェクト立ち上げに従事した後に退職、実家に戻り養豚業を継ぐ。2006年に法人化し、株式会社みやじ豚を設立。独自のBBQマーケティング により2年で神奈川県のトップブランドに育て、2008年には農林水産大臣賞受賞。2009年、日本農業変革のためにNPO法人農家のこせがれネットワークを設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするために活動中。




日本の食の風景「こころのキッチン」を守り、育てていくために、
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
今回は、日本の農業を救おうと、農家の“こせがれ”たちに働きかけて
「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」を立ち上げた、宮治勇輔さんにお会いしてきました。
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
今回は、日本の農業を救おうと、農家の“こせがれ”たちに働きかけて
「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」を立ち上げた、宮治勇輔さんにお会いしてきました。
農家の“こせがれ”たちは、恵まれた存在。
日本の農業を救うため、彼らをそそのかしています。
実家に戻ろうかどうか迷っている農家の“こせがれ”たちと、就農済みの若手農家、そして意識の高い都市生活者が集まる場を用意することで、彼らが「これなら実家に戻って農業ができる!」と自信と確信を持って農業をスタートさせる。それが「農家のこせがれネットワーク」の狙いです。
現在、農業は大きな問題を抱えています。農産物の価格は相場と規格で決められ、農家を苦しめています。デフレが進み、消費者はますます安さを追い求めるようになり、さらに人口減少、高齢化による後継者不足も相まって、日本の農業は危機的状況にあります。統計によると、1995年から2005年にかけて農家の数が70万人も減っており、このままでは単純計算すると、2042年に農家はゼロになってしまうんです。
僕自身、当初は実家の養豚業を継ぐつもりはなかったのですが、農業が大変な事態に直面していると気付き、実家に戻る決意を固めました。同様に危機感を抱いている“こせがれ”は少なくないはずです。ただ自分を振り返るとわかるのですが、都心で働く彼らは、気持ちの上で農家を継げない人が多いのです。農業は、きつい、きたない、かっこ悪い、臭い、稼げない、結婚できない、「6K」産業だと散々言われてきましたから。ただ、その一方で、最近は不況で会社員の給与も不安定になり、農業がブームのように報道されています。そのため実家に戻り農業を継ごうかと迷っている“こせがれ”は増えているのです。僕たちは、そんな彼らをある意味“そそのかして”(笑)、家業の農業を継いでもらうことを目指しています。それが、日本の農業を改善する最短最速の方法だからです。というのも、彼らは実家に戻れば、食費も家賃もタダで、土地はあるし、親に技術も指導してもらえます。これほど農業を始めるのに恵まれた環境はありません。ですから僕は、「農家の“こせがれ”は選ばれた存在だよ」と言っています。


地元・湘南にて農業で起業した宮治さん。自宅から程近い養豚場の豚舎をバックに。
“農家のライブハウス”で腕試し。
独自のネットワークが成功のカギになります。
こせがれに“始めの一歩”を踏み出してもらうには、背中を押してあげる存在が必要です。そこで自分の人脈を活用し設立資金を集めると共に、彼らをサポートするネットワークを作ろうと考えました。さっそく僕が配信しているメールマガジンなどを活用し知り合いに呼びかけると、3ヶ月のうちに1290人もの発起人が集まったのです。また農業をやってみたい、彼らを応援したいという人向けのサポーター制度も用意。このように協力者を増やしながら、“こせがれ”や新規就農者に対して、顧客獲得や販路開拓、商品開発などのサポートをおこなう「農家活性プロジェクト」を進めています。
たとえば最近では、あの六本木を農業の街にしようと、都市住民参加型のファーマーズマーケットで“こせがれ”専用ブースを用意して若い農家に提供したり、「六本木農園」という実験型レストランで、彼らの畑で取れた食材を使い料理をふるまったりしています。大切なのは、お客さんと対話できる関係です。インディーズ・バンドがライブハウスで曲を聴いてもらうように、“こせがれ”も自分の腕を披露できる“農家のためのライブハウス”を設けて、お客さんと対話してもらうと考えました。一方、農業や田舎暮らしに興味のある人向けの「バスツアー」や「農学校」も好評です。
さらに、こうした活動と共に重要なのが、こせがれたちに若手農家の話を聞いてもらう飲み会形式の「農家のこせがれ交流会」で、2ヶ月に1回、30人程度集まっています。彼らは親が年を取り、跡を継ぐか決断を迫られていますが、相談する相手がおらず、一人で悩んでいるケースが珍しくありません。ですから「こういう相談できる場ができてありがたい」「皆あたたかくて素晴らしい」という声をよく耳にします。なかには感動して涙を流す方もいますよ。

六本木のファーマーズマーケットでは“こせがれ”専用ブースを出店。掲げられた「REFARM」こそが農家のこせがれネットワークのミッションだ。

農家のこせがれネットワークとして初めてのイベント「土と平和の祭典」にて。“こせがれ”だけではなく、全国の農家なども参加されたという。
“農家のイチロー”をどんどん増やして
「農家って格好いい」と思ってもらいたいのです。
ただ、当会はそれぞれが自分にできることは何か考えて、主体的に動いてほしいという方針です。そこで考えたのが、「農家って儲かるんだ!」「格好いい!」と“こせがれ”たちが思うような事例の紹介です。イチロー選手を見て子供たちがプロ野球選手を目指すように、まずは“農家のイチロー”を知ってもらい、良い刺激を受けてもらおうと。じつは、この会に参加して活路を見出すケースも徐々に出てきています。たとえば、元会社員の八木岡さんは、この会を通して農家と交流を深め、意を決し、背水の陣で会社を辞めて実家のイチゴ農家を継ぎました。ご本人がいろいろ手を尽くした結果、有名なパティシエにイチゴを気に入ってもらい、順調にいきつつあります。また、愛知県での設立発表会では、地元のホウレン草農家とケーキ店とのコラボレーションが決定し、百貨店でテスト販売を行って話題を集めています。
「こころのキッチン」といえば、僕にとっては、農業を始めるきっかけにもなったバーベキューですね。大学時代、自宅でバーベキューをしたとき、友達に「こんなにうまい豚は食べたことがない!」と絶賛されたのですが、一方で「この豚はどこに行けば買えるの?」と聞かれ、絶句してしまったのです。自分の家の豚肉がどこでいくらで売られているのか分からないというくやしさ。そのときの思いがいまの活動の原点になっています。その後、僕は家業を継ぎ、バーベキューの開催を通して、豚肉の美味しさを口コミで拡げることに成功し、おかげさまで農林水産大臣賞を受賞するまでに至りました。
日本の農業、そして農家はいま大変な状況に直面していますが、危機感ばかり煽っても、若い人たちは振り向いてくれません。「一次産業を、かっこよくて・感動があって・稼げる、3K産業に!」という理念のもと、これからも楽しいシカケをたくさん用意して、より多くの人を巻き込んでいきたいですね。
(2010/04/15)
「農家のこせがれネットワーク」
http://re-farm.jp/
REFARM BLOG by 農家のこせがれネットワーク
http://ameblo.jp/kosegarenet/
「株式会社みやじ豚」ホームページ
http://www.miyajibuta.com/

今年4月からは第三日曜日に、農家だけでなく農業に関心のある人なら誰でも参加できる“こせがれバーベキュー”を開催する予定。