

アメリカ・カリフォルニア州出身。88年に来日し、埼玉県熊谷市で英語教師をしていた時に、八須理明さんと知り合い、結婚。01年に、英語と自然の環境の中で子供を育てる教室として「サニーサイドアップ!」を開設した。三人の息子を持つ母親でもあり、スローフード埼玉のリーダーでもある。ちなみに、夫の理明さんは、安全な飼料と環境にこだわった養鶏や自然農法の米づくりなどに取り組む生産者。




日本の食の風景「こころのキッチン」を守り、育てていくために、
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
そんな方々のお話を伺うこのコーナーの第1回は、
埼玉県で、農作業やその収穫物を使った料理などを通して「食べ物と食べることの大切さ」を
子どもたちに教えている、八須ナンシーさんから話を伺ってきました。
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
そんな方々のお話を伺うこのコーナーの第1回は、
埼玉県で、農作業やその収穫物を使った料理などを通して「食べ物と食べることの大切さ」を
子どもたちに教えている、八須ナンシーさんから話を伺ってきました。
「エディブル・スクールヤード」を
自分の教室でもやりたいと思いました。
カリフォルニア州バークレーにマーティン・ルーサー・キング中学校という学校があります。その校庭に続く小高い丘には野菜畑が一面に広がり、そこでは生徒たちが畑を耕し、種をまき、手入れをして、収穫し、そしてそれを自分たちで料理もする。それが「エディブル・スクールヤード」です。
エディブル・スクールヤードを始めたのは、バークレーでレストランを経営していたアリス・ウォーター。彼女は、レストランで生産者から直接仕入れるということを始めた先駆けの人で、スローフード活動家でもあります。
決して裕福ではない生徒たちの両親は、忙しく料理をする時間がない。かつて生徒たちは、移動販売のトラックから電子レンジで調理したまずい食べ物を食べていたそうです。そこへアリスが現れ、スクールガーデンを作って農作業を必修科目とすることを提案したのです。
学校帰りにブリトーやハンバーガーなどを買い食いしていた子どもたちは、今では、育てた旬の野菜を調理し、テーブルにクロスをかけ、庭から積んできた花を食卓に飾り、食卓の会話を楽しんでいます。
私が、そのエディブル・スクールヤードを初めて訪ねたのは昨年の2月頃でした。ガーデンがものすごく綺麗だったのが印象的です。日本に戻った私は、さっそくその年から、自分の教室でも本格的にスクールガーデンを始めることにしたんです。

畑での作業で食べ物に興味を持ち、
子どもたちは何でも食べるようになります。
私の教室では、小学校へ入る前の子どもたちを中心に英語で教育をしています。いま子どもたちは30人くらいかな。夕方からは小学生も来ます。夫が農業をやってるから、畑での作業はもともとやっていました。2001年にこの教室を始めた時にも、すぐ裏庭に小松菜の種をまいたし、夫の畑にもみんなで行ったりしてたけど、自分の畑は初めて。だから失敗も多いんです。小さい子は、すぐに芽を踏んじゃうしね(笑)。子どもたちはみんな種をまきたくて仕方ないから、我先に種をまいちゃって、苗が密集して草むらのようになってしまったり。
でも、子どもたちは畑での作業に興味を示し、いろいろなことにチャレンジしてる。においをかぎ、葉を噛んでは味を確かめる。野菜が好きになった子も多いです。『この緑のはいらない!』と言っていんげんを食べなかった子も、『ちょっとだけ食べて』と言って食べさせてみたら『うわー!おいしい!』と。どうしてもダメという子に無理に食べさせることはしないけど、みんな、けっこう何でも食べますよ。以前はヤギがいて、そのヤギの乳でチーズを作りました。匂いが強いので子どもたちは食べないだろうと思ったけど、先生たちに食べてもらおうと持って行ったら、子どもたちもみんな食べたがって、ほとんどの子は『もっと食べたい!』って(笑)


畑で取れたものを使ってランチの準備。下ごしらえなどは子どもたちも一緒に。
自分で心をこめて作ったものを
喜んでくれる人がいる。その喜びを教えたい。
「こころのキッチン」ですか? いい言葉ですね。料理は心を入れないと、おいしくできません。食べる人にもそれが分かります。ここでは私たちが作った料理をみんなで食べます。料理を全部食べられなくても、全部食べたいと思うことが大事。子どもたちは、全部食べると私が喜ぶのを知ってるし、そうすると私が一生懸命つくってあげるということも分かっている。残ったものは持って帰ってもらうと、それを家でパパとママが食べるのを見て、食べ物を大事にすることを覚えます。実際に農作業をして作物を生み出すことでも、食べ物を大切にすることが身につく。
自分で愛情をもって育てた野菜、愛情をもって作った料理を、喜んで食べてくれる人がいるということが、大きな喜びになって力を与えてくれる。それが、子どもたちに教えていきたいことですね。
料理はシンプルでいいんです。いい肉、いい米、そしてちゃんとした畑の野菜を使えば、簡単でおいしい料理ができる。だから、私にとって旬の野菜は「ゴールド」なんです。何を大事にしていかないといけないのか、ちゃんと考えないといけません。生産者は大変。みんなすごいと思います。日本にはまだいいものを作っている、いいところがたくさんあります。だから、もっとサポートしていかないと。
ここの子どもたちにしても、自然の中で遊んで、空気もよくて、畑の食べ物を食べて…。だから滅多に風邪もひきません。都会に暮らしていれば、ある程度は仕方ない部分もあるけれど、食べ物は自分で選ぶことができる。自分の食べ物を選ぶのは自分の責任だと思います。
(2009/11/11)
「サニーサイドアップ!」ホームページ
http://sunny-sideup.net/
ナンシーさんのブログ「スローランチ」
http://indigodays.typepad.com/slowlunch/


ハーブなどの匂いをかいだりしながら、子どもたちは食材のひとつひとつに興味を持っていく。