「ここきち」が選んだ旬の人にお話を伺いました。

野菜の個性・こだわりを知り、 「お気に入りの農家」を持つことで 本当の美味しさに出合えます。

1976年神奈川県生まれ。小学校、中学校をドイツで過ごす。慶應義塾大学在籍中に起業し、ICタグやモバイルサイトのソリューションに携わる。IT技術を社会に還元して、日本人の幸福をサポートしたいという思いから、“農業ITベンチャー”を設立。生産者と消費者をつなぐWEBサイトの開発・運営のほか、ファーマーズマーケットなどへの出店など、生産者の方々を側面から支援する様々な活動を続けている。
齋藤悠さん(フウド株式会社)
日本の食の風景「こころのキッチン」を守り、育てていくために、
様々な立場の、様々な人たちが、様々な活動を続けています。
今回は、“農業ITベンチャー”として、農家と消費者が直接交流できる場を
様々な形でサポートされている、齋藤悠さんにお会いしてきました。

四季折々の季節感、旬の食べ物の話題こそ、
日本のコミュニケーションの基本だと思います。

「ITの技術を、農業に活かすことはできないだろうか」
起業した当初から、私は漠然とそんな思いを抱いていました。学生時代、いくつもの国を巡り、音楽を軸にコミュ二ティが形成され、老若男女が集う幸せな光景に触れる機会が数多くありました。ただ日本の場合、その共有できるものは音楽ではないのでは、と感じていました。日本では四季折々の季節を感じたり、旬の食べ物の話をしたりすることが交流を育むうえで大切であり、それこそ共有できる話題、価値観ではないかと。たとえば、親子が野菜の並ぶ店頭で、「お店に旬のタケノコが出てきたね。本格的な春ね」などと言葉を交わすことが、日本では自然なコミュニケーションだと思います。
 農業関係で仕事をするようになったのは、2004年に国の農業系の学会に飛び込んだ事が始まりです。2006年には、神奈川県農業技術センターとの共同研究で、神奈川県の地産地消サイト「かながわ農の逸品」を立ち上げ、秦野の「じばさんず」、寒川の「わいわい市」といった大型直売所を拠点にインターネットや口コミによる消費者への訴求を試みました。パソコンと携帯電話から手軽に農産物やレシピの情報を得られる同サイトのノウハウが、その後の活動に結びついています。
 2009年にプレオープンした「ノウカテレビ」もそのひとつです。こちらも農業者や直売所のスタッフが直接情報を発信できるサイトで、農園のプロフィール、出荷している直売所やこだわりの逸品の情報、生産者の近況がうかがえるブログなどを用意しています。現在は「かながわ農の逸品」や、直売プロジェクト「マルシェ・ジャポン」に参加されている13の農家が情報を発信し、近々EC機能も追加する予定なので、本公開後はネット上で野菜の売買ができるようになります。
 もちろん、生産者のなかにはこうしたインターネットやサイトの編集には不慣れな方もいると思います。ですからテキストや画像、レイアウト情報などを一元的に保存・管理できる高性能なソフトを活用し、誰でも簡単に記事がアップできるような仕組みにしています。サイトの編集方法がわからないことがあれば、私たちがおうかがいして直接フォローすることもありましたね。
齋藤悠さん(フウド株式会社)
齋藤悠さん(フウド株式会社)
齋藤さんのフウド株式会社が運営する農家発信の情報サイト「ノウカテレビ」

個性・こだわりのある野菜を手に取って
「お気に入りの農家」を見つけてほしいんです。

 「IT」ということだけでなく、例えば、農林水産省主導のもと全国の大都市で展開している直売プロジェクト「マルシェ・ジャポン」などにも参加しています。都心のファーマーズマーケットということでも話題になっていますが、私たちが出店している「ファーマーズマーケット @ 国連大学前」は、“都市での農的生活”をテーマに運営されていて、グローバルな視点で農業問題を発信するなど、非常にユニークなスポットになっています。
 ただ家族単位の小規模な農家では、労力や運送コストなどの問題もあって、そうした都心で開催されるファーマーズマーケットには参加しづらい面もあるのです。そこで、私たちが「かながわ農の逸品」として出店し、いくつかの生産者の農作物をまとめて店頭販売しているのです。規模に限らず、どのような農家でも参加できるようにこれからも支援していきたいと思います。
 店頭に並ぶのは各々の農家が持参している野菜や花ですから、大手食品店のように、すべて消費者好みに均一化されていません。生産者それぞれの人格や個性、こだわりが存分に発揮されているので、足を運ばれたお客様の好みに合う・合わないがあるでしょう。逆に、それを直に接しながら楽しんでほしいんです。規格や検査の有無だけではなくて、自分好みのお気に入りの農家を見つけて、生産者である農家とつながりを持っていただきたいと願っています。
「いつもの○○農園で買おう」と足を運べば、同じ農家でも毎週野菜のラインナップが変わったり、天候によって出ている野菜に変化があることなどに気付くはずです。ぜひお気に入りの農家で、自分好みの野菜や花などを手に入れていただきたいですね。
齋藤悠さん(フウド株式会社)
「かながわ農の逸品」として都心のファーマーズマーケットにも出店。
齋藤悠さん(フウド株式会社)
ファーマーズマーケットでは、齋藤さん自らが店頭に立つ。

食の安全・こだわりは千差万別。
本当の美味しさを知ってほしいのです。

 農家は、野菜に関する考え方や野菜の育て方、こだわりもそれぞれ異なります。同じ直売所に置いてあるトマトでも、それを作った農家によっても、とれた日によっても、甘み、旨みが驚くほど違いますし、一概に「生産者のこだわり」とあっても、実際は千差万別です。例えば、こだわって作ったといえば、すぐ有機栽培や無農薬栽培などを思い浮かべるという人も多いかもしれませんが、こだわりというのはそういうことだけではありません。農作物の選び方、育て方、美味しさの追求、専業兼業という農家のスタイルまで、独自の工夫を施し、こだわっている農家がほとんどです。成功している朝市や直売所を見ていると、消費者は明らかに「安心安全」ということではなく、結局「どれか美味しいか」で野菜を選んでいるみたいですよ。
 もちろん美味しい野菜を選ぶコツは、旬を意識することにも通じます。実際に野菜を購入する消費者にはもっと「農家」のことを知り、つながりをもつことで理解を深めていただければと思います。
 また、こうした生産者が情報を発信して消費者と交流を育める場は、漁業でも考えられるはずです。たとえば、東京湾内なら携帯電話の電波が通っているので、湾に居る漁師さんが当日の収穫情報をインターネットで発信することも可能です。漁業においても新たな仕組みを設けることで、今まであまり知られていなかった魚の美味しさを消費者に伝えられると思います。
 「こころのキッチン」ですか…? うーん、そうですね、「皆で美味しいものを食べたときの笑顔」ではないでしょうか。それに勝るものはないのではないでしょう。人と人とが交流できる場を築くことで、これからもそんな笑顔を増やしていければと思っています。
(2010/02/15)


「かながわ農の逸品」
http://kanagawa-ippin.jp/
「ノウカテレビ」
http://nouka.tv/
齋藤悠さん(フウド株式会社)
齋藤悠さん(フウド株式会社)