農業や農産物に親しみを感じてもらい、
食と農をつなぐレストランを目ざして

板橋区の静かな住宅地の中にぽっかりと存在する300坪の農園。市民のための農業塾として「ハーブ&おいしい野菜塾」がこの地に開校したのは、2005年5月のことでした。「もともと地盤が固くて根が張りにくく、最初、畑作りには苦労しましたが、ようやくいい状態になってきました」と、シェフの久保田孝一さん。取材した2月の中旬は農閑期ながら、ルッコラ、春菊、茎ブロッコリーが収穫の時期を迎えていました。
敷地内に農園を一望できるレストランがオープンしたのも塾の開校と時を同じくして。当初は食育プログラムの一環として、塾生に食事を提供する場だったそうですが、野菜塾が休講となった2009年の春、レストランは一般客が誰でも利用できるスタイルへと生まれ変わりました。
無農薬野菜を使ったフルコースのランチを1500円というリーズナブルな値段で楽しめるとあって、平日のランチタイムでも予約客で多くの席が埋まる盛況ぶり。久保田さんが心掛けているのは、「野菜はもちろん、肉や魚も含めてその時期の『いいもの』を厳選して出すこと」。さらに「新鮮な野菜をただ、たくさん出すだけでは食べるほうも飽きてしまう。むしろ、メインディッシュに合うような野菜をどう調理して食べさせてもらえるのかにお客さんは期待されていると思うんですよね」。具体的にはどういうことなのか、実際に味を確かめながらうかがいました。

無農薬野菜はカタチがいびつで虫喰いも。
でも皮ごとまるごとおいしく、安全!

店で使用する野菜は、敷地内の自家農園のほか、栃木にある付属農場で収穫された無農薬野菜が中心。加えて新潟県十日町や九州など、全国の契約農場から送られてくる野菜も使っています。「どれも規格外の形だし、虫喰いもある。でも無農薬だから当然ですよね。皮ごと調理しても安全で、何よりおいしいですよ」と久保田さん。ものによっては送られてくる量も半端ではないそうで、食材ひとつで段ボール数箱分のこともあるとか。そのため自然と、アレンジのバリエーションも豊富に。メインディッシュのソースの材料になったり、ミキサーにかけてスープにしたり、あるいは新しい創作デザートの素材となったり。「調理方法について聞かれることで、お客さんとのコミュニケーションが生まれれば嬉しいですね。でも、すべて細かく伝えなければ、とは思いません。ただ食べて、おいしいと感じてもらえれば、それが一番なので」。たとえばこの日の魚料理は、昆布、野菜とで酒蒸しをした金目鯛にブイヨンで調味した野菜がたっぷり。皿にはクリームソースが添えられています。このクリームソース、本来は玉ねぎで作るところを栃木から送られてきた伝統野菜「宮ねぎ」を使用。口の中にまろやかな甘みが広がっていきました。

ホールはガラス張りのテラス席がメイン。
食事の後には農園で自由に散策を楽しむ

食事の内容もさることながら、このレストランの持つもうひとつの魅力が店内からの眺め。ホールのほとんどがガラス張りのテラス席のため、快適な室内にいながらにして、農園で食事をしているかのような開放感を味わえます。4月から5月にかけてはチューリップや薔薇などの花も咲き揃い、食後に農園を散策するのも楽しみ。少しずつ、多くの野菜や花が植えられており、すべてに名札が挿してあるのは、この農園を農育も兼ねた、「見せる畑」と位置付けているからだそう。収穫を待つ野菜に子どもが興味を示したときには実際に取ってもらうこともあるとか。
農園の奥にある温室でおこなわれていたのはイチゴの栽培。省スペースでたくさんのイチゴを収穫できるよう、立体的にパイプを張り巡らせた中に水と溶液を流して苗を育てる近代的な設備が広がっていました。受粉を手伝うためにミツバチも働いているハウスの中では3種類のイチゴが実をつけ、週末のイチゴ収穫体験に備えています。ここでイチゴが採れたときにはデザートの材料としてレストランのメニューに登場することもあるようです。

(レポート: r.osumi/2010-2-19)
東京都の農家レストラン「ハーブ&おいしい野菜塾」
この日のオードブル。手前から時計回りにさつまいものオレンジ煮、味わい地鶏のロートロ サルサ風ソース添え、玉ねぎのロースト。
東京都の農家レストラン「ハーブ&おいしい野菜塾」
'09年6月からシェフを務める久保田さんはイタリア料理の経験が長いため、着任以来、メニューにもイタリアンの要素を採り入れている。
東京都の農家レストラン「ハーブ&おいしい野菜塾」
野菜を使ったオリジナルデザートの種類も豊富。小さく切ったごぼうが入ったチョコレートケーキ(写真)のほか、さつまいものティラミスや、スイートトマトなど。
東京都の農家レストラン「ハーブ&おいしい野菜塾」
オードブル、スープ、サラダ、パン、メインディッシュにデザート、ハーブティーまたはコーヒーがついた人気のランチメニュー。
東京都の農家レストラン「ハーブ&おいしい野菜塾」
ガラス張りでオープンな雰囲気の店内。春には花が咲き揃い、野菜も芽吹き始める菜園を眺めながら、食事を楽しめる。