ブルーベリーの休憩所から…
「手づくり」のスパイスをきかせた家庭の味。

 のどかな田園エリアの中にある、農家レストラン「ひだまり」。果実畑や田んぼ、川や土手といった穏やかな風景に包まれた一軒家です。取材にお伺いしたのは2月下旬で、まだまだ裸ん坊な畑でしたが、ブルーベリーを植えている一角に案内してもらいました。植えられた木々は高さ150㎝くらいでしょうか。思ったほど背は高くありません。葉の無い木のつぼみはまだ固く、ブルーベリーの木は静かに春のおとずれを待っているかのようでした。ブルーベリーの実の収穫は夏のことですが、「そのまえ、春になったら白いちっちゃい花を咲かせるの。それもまたいいものですよ」と、「ひだまり」の店主の見川さん。果樹園の200本をこえるブルーベリーの木が白く色づく風景。想像しただけで気持ちがポッと温かくなりました。
「最初はね、ジャムとか加工品をつくっても売る場所が無くて...」。「ひだまり」がオープンしたのは平成14年。当初は夏場、果樹園を訪れるお客さんに加工品を販売する場所にすぎなかったのだそうです。「最初はブルーベリー狩りの休憩所として飲み物だけ提供していて、食事までだそうとは思ってなかったんです。でも夏場だけ開いてるのもどうかなって。だんだん欲張ってお昼も出すようになりました」。
 食事のメニューは1種類。週替わりの「本日のランチ」のみです。この日の主菜は鰯のハンバーグ。ごはんはもちもちした食感の黒米ごはんに、自家製の漬け物とこれまた自家製の味噌を使った菜の花のみそ汁。ブルーベリーでつくったドレッシングでいただくサラダに大豆と大根の煮物、ブロッコリーの餡かけという献立でした。けっしてめずらしい料理ではありません。だからこそなのでしょう。普段食べている野菜からは感じたことがない力強い味と香りに驚かされました。
「ひだまり」では野菜はもちろん、米、味噌、ドレッシングにいたるまでそのほぼ全てが手づくり。違いを生み出すスパイスと表現したくなるような、このひと手間が伝統的な家庭料理に彩りをそえています。ここでしか食べれない味です。

埼玉県ふるさとの味伝承士。
郷土料理をいまに伝える。

 果樹園の管理や店の切り盛りで忙しいなか、見川さんはさいたま市主催の料理講習会に講師として参加されています。「地場農産物の料理講習会を行っているんです。市で募集して、毎回20人くらいの人が来てくれてますよ」。市内で採れる農産物のPRを目的としたこの講習会は、参加費が1,000円と格安なこともあってか、リピーターも多く毎回抽選になるほどの人気だそうです。見川さんは埼玉県認定のふるさとの味伝承士として年に数回、市内産の旬の野菜を使った郷土料理を教えています。「(講師の)人数少ないんで、ノルマっていうか(笑)」と、照れながら語ってくれた見川さんですが、人気の講師でいらっしゃる様子。そういえば今日いただいた料理にも見慣れないものが…。漬け物の小皿にショウガのようなものが盛りつけられていました。
「その茶色いのはキクイモっていうんです。お芋っていうわけではないんですけどね」。シャクシャクとした食感が楽しいキクイモの味噌漬け。戦中戦後の食糧難の時代には重宝されたそうですが、最近では雑草あつかいをされることも多い、忘れられかけた食材のひとつです。このキクイモに限らず、店であつかう食材、その調理の方法について聞いてくるお客さんも多くいらっしゃるとか。「そうやって聞いてもらえるのはありがたいことですね」と見川さん。課外授業は毎日、といったところでしょうか。

気負わず、自然体で、出来ることから
「こころのキッチン」を伝えるということ…

 それなりに手間が掛かるであろう、伝統的な調理法やしたごしらえ、いくつもの手作り食材の準備。食事メニューは1種類とはいえ、手を抜くような様子がありません。これからどんな風に店をやっていかれるのか、伺ってみました。
「いまと同じように。そのとき採れる野菜で出来ることから...そんな感じのままで。夜の営業ですか?それは無理ですねえ。だんだん年取るんだもん、欲張ったって無理ですよ〜」と笑顔で語ってくれた見川さん。
 日本の食の風景を残し、伝えていく。『地産地消』や『食育』といったキーワードを見川さんが語ることはありませんでした。言葉にせずともすでに始めているから、かもしれません。気負わずに、出来ることからやっていく。大事なことをひとつ、教えてもらいました。

(レポート: m.okusako/2010-2-22)
埼玉県の農家レストラン「ひだまり」
店と果樹園を切り盛りされている見川さん。 ひだまりのような明るい笑顔がとても印象的な方でした。
埼玉県の農家レストラン「ひだまり」
たっぷりの野菜をいただける「本日のランチ」 この日のメインは鰯のハンバーグ
埼玉県の農家レストラン「ひだまり」
ピンク色のドレッシングがブルーベリーソース。 酸味とほのかな香りが野菜の味を引き立てます。
埼玉県の農家レストラン「ひだまり」
果樹園で採れたブルーベリーやイチジクを使った 手づくりのジャム。保存料や着色料を一切使っていない、埼玉県のふるさと認証食品です
埼玉県の農家レストラン「ひだまり」
訪れたのは2月の下旬。まだ寒さの残る畑に、 さきほどいただいた菜の花がひっそりと。