大正時代からこの地で漁業を営む。
小売業からレストランへ。

 3月11日。相模湾に春の訪れを告げるしらす漁の解禁日。朝獲れの生しらすを楽しみに、茅ヶ崎にあるしらすと地魚の店「快飛(かっとび)」にやってきました。ところが、「船は出したんですが、まだ水温が低いせいなのか、ほとんど獲れなかったんです。残念ですが…」と「快飛」店長の清水さん。今日は生しらすは食べられないのか…残念がっている私を見かねたのか、「自然が相手ですので。これから4月から5月にかけて最初のピークを迎えて漁も安定してきますから、またその時に」と清水さんがなぐさめてくださいました。自然が相手。いつも手に入るとは限らないからこその貴重さ。到着して早々に神妙な気持ちになりました。
「もともとが、漁師なんですよ。それが自分たちで獲ってきたものを自分たちで売るっていうことになっていきまして」。「快飛」は大正時代からこの地で代々漁業を営む網元・北村水産の直営店。北村水産では平成2年より茅ヶ崎では初めてとなるしらす・干物の専門店を開いていましたが、「茅ヶ崎の海で獲れる新鮮なしらすや魚をその場で食べられたら」というお客さんの声に後押しされ、「快飛」を開業したそうです。平成12年9月のことです。

日の出とともに始まるしらす漁。
素材の味を第一に考えて。

 早朝5時。日の出とともに茅ヶ崎港を出発。魚群探知機を道案内にして、しらすの群れを船で追い、網を投げ入れる。「小さい魚ですからとにかく鮮度が命なので」と清水さん。 水揚げしたしらすを港から車で5分の作業場まで、それこそ「あっという間に」運んでくると、冷水で手早く水洗いした後、沸騰した釜に入れて茹で上げます。湯切りをし、天日で干して、『釜揚げしらす』の出来上がりです。
 相模湾でしらす漁の認可を受けているのは29軒。干し方や塩の加減によって、それぞれ味に特色があるのだとか。「釜揚げの際、塩をいれるんですが、本当に微妙な味付けですね。ウチはほとんど塩をいれません。素材の味を優先することを第一に考えています」。
 しらす御膳をいただいてみました。確かに塩加減は幾分、抑えてある感じですが、決して物足りないというわけではありません。むしろその程よい塩の加減が滋味あふれるしらすの繊細な味をくっきりと浮かびあがらせているように感じました。
「快飛」では様々なしらす料理がいただけます。しらす入り厚焼き卵にしらすのさつま揚げ(快飛揚げ)、しらすのかき揚げ…。そのどの料理にもしらすの繊細な味が損なわれることなく生きていました。ベースである『釜揚げしらす』の「繊細な味付け」がそれを可能にしていることは間違いありません。

相模湾で獲れる旬の
地の魚を提供していきたい。

 食事も終わりに差しかかったころ、茅ヶ崎の名物ですので是非、と鯵の押し寿司をすすめていただきました。酢飯と鯵の身に挟まれているのは自家製のなめろう味噌。土の風味といったらいいんでしょうか、なめろう味噌に使われているネギとゆずの香りが新鮮な地場産の鯵にさわやかさを加えています。魚嫌いなお子様にも是非おすすめしたい一品です。
 外食文化の影響もあり日本の食卓から魚料理が占める割合が減ってきています。その地域に根差した料理。山には山の、海には海の、そこが相模湾であれば…「いまですと、ほうぼうとか、太刀魚とか、鯵もおいしいですね。まぐろのような大きな魚はここでは獲れませんが、しらすはもちろん、相模湾で獲れる旬の地の魚を活かした料理を提供していきたいです」と清水さんは語ってくれました。
 
(レポート: m.okusako/2010-3-17)
神奈川県の網元レストラン「快飛(かっとび)」
看板メニューの「釜揚げしらす」。ほどよい塩加減でごはんにとてもよく合います。
神奈川県の網元レストラン「快飛(かっとび)」
この日いただいた料理の数々。手前左からしらす入り厚焼き卵。快飛丼(海鮮丼)。釜揚げしらすおろし。しらす御膳。
神奈川県の網元レストラン「快飛(かっとび)」
茅ヶ崎名物「鯵の押し寿司」。酢でしめた鯵の美味しさもさることながら、間に挟んだなめろう味噌の風味が美味しさを引き立たせてました。
神奈川県の網元レストラン「快飛(かっとび)」
木目調で統一された落ち着いた雰囲気の店内。きさくな板前さんの笑顔にほっとします。
神奈川県の網元レストラン「快飛(かっとび)」
安産と子宝を祈願して店内に祀られているしらす地蔵。とてもかわいらしいお地蔵さんでした。