多くの観光客を受け入れて来た群馬北東端の村には、
豊かな自然とあたたかな心があふれている

 今回訪れた「農家レストラン みのりの里」は、群馬県片品村にあります。
 片品村は、郷土に根付く上毛カルタで「鶴舞う形の群馬県」と詠まれる群馬の、左の翼の先端にあり、福島県、栃木県と県境を接する高原地帯。夏は水芭蕉で有名な尾瀬国立公園、冬は大勢のスキー客で賑わうという、観光のまちです。
 取材当日、JR沼田駅から出発したバスを降りる間際に、突然雨が降り出してきました。すると1人しかいない乗客の私に、「傘、使ってください」と運転手さん。「帰りのバスの運転手に返してくれればいいから」と、見知らぬ私をやさしく気遣ってくれました。傘をさし、バス停から5分ほど山道を登ると、今度は民家の軒先にベンチがあり「休んでいがっしゃい」との立て札が掛けられています。取材先に到着する前から片品村の人々のやさしさに心を洗われた気分です。
 バス停から20分ほど歩くと、「みのりの里」に到着。レストランの窓からは、遠景に武尊山、近景に8000坪の自家農園が広がる…はずだったのですが、武尊山は雨雲に隠れていました。「武尊のてっぺんが見えれば、雨は止むんだけどね」と、「みのりの里」のオーナー星野敦子さんは残念そうにつぶやきました。それを聞いて同じように残念そうな顔をしたのは、3人組の女性客。彼女たちもこの店の評判を聞いて、東京から車でやってきたそうです。

初夏はアスパラ、盛夏はトマト、ズッキーニ、
とうもろこしなどが食べごろに!

 結局、傘をさしながら農場を案内してもらうことになりました。今の季節は何と言ってもアスパラがおいしいとのことで、「根本からポキンと折って、そのまま齧るのよ」と星野さん。レストランとは別料金の収穫体験に申し込めば、そんな食べ方ができるそうです。もちろん、レストランでも穫れたてのアスパラを使った料理が楽しめます。
 店内に戻り、実際に試食させていただいた「ライ麦のピッツァみのり風」には立派なアスパラが何本も盛られていました。茎はやわらかく、穂先は抜群に甘い。例年であれば、5月の連休あたりにはアスパラが食べごろになるところですが、今年は春が寒かった(5月に霜が下りたほど!)影響で生育が遅れているとのこと。今年のアスパラ収穫のピークは6月になりそう、と星野さんは予想しています。
 生地に2割ほど混ぜ込まれているライ麦も、トッピングのウインナーも自家製です。アスパラの旬は7月半ばまでですが、その後はトマト、ズッキーニ、モロッコインゲン、ベビーコーン(とうもろこし)など、すべて目の前の畑で穫れた野菜を使った豪華なピッツァができあがる時期を迎えます。
 いずれの食材も規格外なほどに大きくて、それでいて甘みがぎっしり詰まっていると評判です。その秘訣は、朝晩の冷え込みと日中の照りという高原特有の寒暖差と、農薬を極力使わず、1つ1つの野菜とじっくり向き合う「みのりの里」のポリシーにあります。観光客がもっとも多く訪れるのも、7〜8月。その多くは都会からやってくるそうです。

「おもてなしの心」を何よりも大切に、
メニュー作りに徹底的にこだわってきた

 
 「都会からやってくるお客様をおもてなしするには、ただ田舎丸出しでは足りないんだと思います」。そう語る星野さんは、レストラン開業以来、メニューづくりに徹底的にこだわってきたと言います。
「穫れたてのトマトといっても、トマトを丸ごと出すだけではレストランにならないですよね。トマトならトマトを使って、洗練されたメニューを提供しなければ、都会の人を楽しませることはできないんです」と、常に頭をひねり続けてきたそうです。しかしそんなお客さんのニーズと、星野さんの作物に対する思い、そしてコックさんのプライドがなかなか一致せず、結果、コックさんはひんぱんに入れ替わってきたと、星野さんは振り返りました。
 現在、「みのりの里」の料理長を務めるのは、他でもないオーナーの星野さんです。最も信頼関係が深かったという先代のコックさんは昨年いっぱいで独立し、「みのりの里」を巣立っていきましたが、彼が勤め上げる間に、店のコンセプトを理想どおりに表現できるメニューは整っていました。それに、「みのりの里」のこだわりを理解してくれるコックさんを、また1から探し出すことも難しい。「だったら、私がやってみよう」と、星野さんは新たな挑戦を決意したのです。
 聞けば、星野さんとご主人の一(はじめ)さんは、ずっと新しいことに挑戦し続けるご夫婦だったそうです。一軒のりんご農家から始まり、しぼりたてジュースの直売、「農家民宿」、「収穫体験農場」の経営、そして「農家レストラン」の開業と、すべては人真似でなく自己流で立ち上げ、軌道に乗せてきました。なかでも民宿と収穫体験には、一時期、国会議員や県の行政担当者による視察が絶えなかったほどだといいます。
 つまり「みのりの里」は、「グリーンツーリズム」という観光スタイルの先がけとして注目された、当時最先端の農家だったということ。星野さんの気持ちは、その当時からまったく変わっていません。「田舎の農家ならではのおもてなし」を、遠くからはるばるやってくるお客さんに提供したい。それが「みのりの里」の願いなのです。

(レポート: y.ebashi/2010-05-19)
群馬の「農家レストラン みのりの里」
レストランの目の前には、約8000坪もの広大な畑が広がる。離れた場所にある田んぼでは自家製のコメも栽培。(写真提供・みのりの里)
群馬の「農家レストラン みのりの里」
窓の外に武尊山を臨むレストラン。穫りたてのアスパラなどの販売もあり。
群馬の「農家レストラン みのりの里」
ライ麦を練りこんだ生地に、畑で穫れた季節の野菜をたっぷり乗せた特大ピッツァ。食べきれなかったら箱詰めしてテイクアウトも可能。「みのりの里」の一番人気メニュー。
群馬の「農家レストラン みのりの里」
ポークソテー。地元産の豚ロース使用。付け合わせの野菜はもちろんすべて自家製。
群馬の「農家レストラン みのりの里」
自家製のコメを使ったパン。おみやげに人気。
群馬の「農家レストラン みのりの里」
片品村で代々続くりんご農家に、東京から嫁いできた星野敦子さん。農業を一から学び、現在の「みのりの里」を旦那さまと二人三脚で築き上げた。