ガーデンで作ったハーブは料理に、
花や樹木は美しい和みの借景に。

 新鹿沼駅からタクシーで30分、山々に囲まれた田舎道を走りぬけると、「キッチン花農場ミントハウス」の建物が見えてきました。ここは花の大好きな農村女性8人がオープンしたというフレンチイタリアンレストラン。農家レストランの中でもかなり本格的な味が味わえるということで、近隣だけではなく、東京や埼玉あたりから連日続々とお客様がやってくるそうです。
 出迎えてくださったのは、「花農場あわの」の代表取締役・若林ふみ子さん。他の7人の女性スタッフとともに、厨房で料理を作り、サーブし、また併設されているガーデンの200種類に及ぶハーブや花の手入れをし、販売用のドライフラワーを作るという日々を10年以上も送ってきました。
 さて今回はハーブを使った人気料理をメインにアラカルトの中から選びました。
 1品目、かぼちゃの冷たいスープは、さらりとした舌触りなのに、とてもコクがある。「男性はあまりカボチャが好きじゃないけど、ここのはおいしいってよく注文されますよ」と若林さん。確かに洗練されたこの味は、家庭料理のそれとはひと味もふた味も違うことでしょう。
 2品目は、ガッツ卵とフレッシュハーブのフワフワオムレツです。ガッツ卵とは、粟野町出身の元プロボクシング世界チャンピオン「ガッツ石松」氏をキャラクターにした卵の名で、割ったときの黄身の色の濃さと栄養価の高さで高く評価されている地元名産。ナイフを差し込むととろりと卵が溶け、中に入ったハーブがまた香り豊か。まさに洋食屋さんの完璧なオムレツ!
 最後はチャイブ、フェンネル、サラダバーネット、バジル、ルッコラなど7種のハーブがふんだんに乗ったフレッシュハーブサラダピザ。パリパリの薄いピザ生地は、若林さんたちが毎朝こねており、サラダにかかっているドレッシングもトマトソースもすべて手作り。「ナスタチウムの花が上に乗るんですけど、猛暑で花がやられてしまって」と若林さんは残念そうでしたが、充分に見た目も味も本格的でした。

フレンチの大御所に料理とサービスを学び、
いまでは年間3万人の来場者を数える。

 若林さんら粟野の農村女性たちが所属していた「粟野町生活改善クラブ」では、93年からドライフラワーの研究を始め、翌年からはリースの商品開発と販売を開始。友好姉妹都市であった墨田区のイベントやお祭りに、リースや野菜、粟野の名産である蕎麦を持参し、販売していました。
 当時、会長だった若林さんは、リースで使用するローズマリーやラベンダーなどのハーブを何か他に使えないかと考えていたそうです。そんな矢先、粟野町の農林課から「ふるさとルネッサンス事業」という補助事業があると聞き、97年に「花農場あわの」設立準備会が発足、翌年8月に登記をすませ、99年5月にミントハウス、体験教室、ガーデンも含めた「花農場あわの」をオープンしました。
 若林さんは準備の段階で「ハーブを使った料理」を思い浮かべていたそうです。「ハーブを使うと、和食ではない洋風料理、つまりフレンチイタリアンみたいになる。でも私たちにはそんな料理は作れない。そこで農林課や県に相談したところ、栃木県地域おこしマイスターに音羽和紀さんというフレンチのシェフがいると言われたんです」
 音羽氏は大学卒業後に渡欧、8年ほどフランス、ドイツ、スイスなどのホテルやレストランで修行、フランス料理界の重鎮、故アラン・シャペルに日本人として初めて師事し、帰国後に銀座の中村屋で総料理長をされ、81年に宇都宮でフレンチレストラン「オーベルジュ」をオープンした料理人です。そのようなすごい肩書きの人に若林さんは会いに行き、「料理を教えてください」と頼み込んだのです。
 「最初はさすがに、農家の主婦が大丈夫かいな?という顔をされましたよ(笑)。でも先生をこの場所にお連れしたら、そのときはまだ建物も建っていないし、ハーブも植えだしたところでしたが、とても気に入っていただいて、『これは癒しの店になるだろう』と言ってくれたんです」
 それまで「農家の主婦」だった8名の女性たちは、一人前の料理人になるべく、音羽氏のところで修行しました。もちろん農家の仕事も家庭の事情もあるので通えても一日3~4時間ですが、彼女たちは毎日音羽氏のレストランの厨房で料理を教わり、サービスのノウハウも学びました。そして1年後にレストランがオープンしたのです。
 驚くべきことに、12年経った現在も1ヶ月に1度は味の確認やメニューの刷新のために音羽氏に学び、現在の総メニュー数はなんと138種類! また、これも月に1度行われる音羽氏主催の食事会に自腹を切って出かけていって、アラン・シャペルの兄弟弟子だったオテル・ドゥ・ミクニの三國清三氏や、ソムリエの田崎真也氏などと一緒に、フレンチのコースを楽しむのだとか。
 この学びの継続が、年間3万人もの来場者数を誇るレストランの秘密なのでしょう。

「都会の人にカルチャーショックを与える」、
それがミントハウスのスローガン。

 こうして「ドライフラワー販売とフレンチイタリアンの店」というコンセプトは、大成功を遂げたのです。実際、農家のレストランだからこんなものだろうと料理を予測して来たお客様が、食べて驚いて、リピーターになることもとても多いそう。計画当時は反対していた家族や親戚も、彼女たちの努力や料理の腕前を知って応援する側に転じ、いまではトラクターや耕運機でガーデンの除草や手入れを手伝ってくれるようになりました。
 「私は粟野町の農家に生まれ育ちましたが、小さなころから丹精こめて育てたものが大きくおいしく育つというのが喜びでした。それに加え、いまはそれらの作物を目の前でおいしく食べていただけるので、本当に幸せです」と語る若林さん。
 将来の展望を尋ねると、「田中義剛さんの生キャラメルじゃないですが、地方から発信する、それくらいの気概をもって頑張りたい」との力強い答えが返ってきました。ミントハウスはまだまだこれからも発展していくことでしょう。
 スローガンは「都会の人にカルチャーショックを与える」なのだとか。ガツンと一発、カルチャーショックを受けに出かけてみてはいかがでしょうか?

(レポート: k.hori/2010-10-12)
宮城県の農家レストラン「秋保ベジ太倶楽部 農家のレストラン」
上から、かぼちゃの冷たいスープ(カップサイズ420円)、ガッツ卵とフレッシュハーブのフワフワオムレツ(525円)、フレッシュハーブサラダピザ(630円)。アラカルト以外にコースメニューもお手頃価格で提供している。
ブルーベリーのタルト(367円)は酸味がさわやかで、なおかつしっかりとした濃厚な味。ガーデンに100本ほど植わっており、料理に使うブルーベリーソースやアイスクリーム、ジュースなども作っている。デザートは季節の果物を使用し、秋はこの他に栗のタルト、いちじくのタルトなども人気だとか。
「お客さんは一度マズイと思うと、二度と来てくれない。やはり一流の味を追い求めないといけないと思う。ありがたいことにリピーターは多いですよ」と若林さん。
花はガーデンで摘んだあと、すぐに乾燥室で乾燥させる。70~80度の高温で3日乾燥することで、綺麗な花の色が保たれるのだとか。クリスマスリースやお正月のリース、バレンタイン、ホワイトデー、母の日、結婚祝い、新築祝いなどさまざまな依頼がある。またドライフラワーや押し花の講習も行っている。
朝に白い花を咲かせ、時間が経つに連れて色を赤く染め、夕方には見事なピンク色になる。その様がお酒に酔ったように見えることから酔芙蓉と名付けられた。