リニューアルした日本料理店で
朝採りの野菜と新鮮な地魚料理に舌鼓。

 JR横須賀線の逗子駅から徒歩3分、閑静な住宅街の真ん中に日本料理店の新道亭はありました。
 ここは以前は割烹旅館で、東京から避暑や避寒に訪れる人がとても多かったそう。割烹旅館の前は料亭、その前は西洋料理、さらにその前は蕎麦屋をやっていたらしく、なんと創業145年の老舗なのです。しかも創業当時から「新道亭」という屋号は変わりないのだとか。
 まずはランチメニューで人気の海鮮ちらしをいただきました。
 目を引くのが宝石のような輝きを放つ、自家製のいくら醤油漬け。そして三崎であがったまぐろに、小田原産のさより、えび、あなご、いかとぎっしりとご飯の上に並んでいる。どれも今朝獲れたばかりの魚介ということで、実に新鮮です。ちなみに刺身醤油も自家製だそうです。
 次にいただいたのが、大海老天丼。
 こちらは大きな海老2本がお重からはみだして乗っているのがなんとも豪快です。野菜はナスとカボチャとししとうで、ししとうはさっき近所の畑で摘んだばかり。甘味をおさえたつゆに、からりと揚がった天ぷらがからんで、あつあつを頬張ると、なんともいえない幸せな気持ちに。
 最後に出てきたのは、先日夜のメニューに加わったばかりという、鎌倉野菜の蒸し物。
 トマト、じゃがいも、人参などの蒸したての自家製野菜に、イタリア産のオリーブオイルや柑橘、塩こしょうなど好きな調味料で食べるという料理で、野菜を一口噛むと、まず濃い野菜の匂いが立ちのぼり、そしてやさしい甘味としっかりとした歯ごたえが感じられました。

料理人に大切なのは、
不断の研究心とお客様への心遣い。

 料理長の齋藤勝四郎さんは、16歳で和食の世界に入り、銀座や赤坂のホテルや旅館、割烹など、さまざまな場所で修行を重ね、料理の腕を磨いてきました。東京を離れたあとは、藤沢で長く日本料理店の料理長を務め、今年の新道亭リニューアルオープンの際に新しい板長としてやってきました。
「ここらあたりの魅力は小田原、三崎、葉山などの地魚が豊富だということ。それから最近鎌倉野菜というのが有名ですが、まさに逗子で採れる自家製の野菜や、さっき言ったような地魚をふんだんに使って、新しい料理をこれから提供していきたい」と意気込みを語ります。
 メニューもこれまでの新道亭の定番(有名なのは冬のぼたん鍋)も受け継ぎながら、季節ごとに刷新し、新しいことにチャレンジしたいのだとか。たとえば秋から冬に向けては、相模湾で獲れた魚の鍋や、3日くらい味噌漬けした金目鯛の西京漬け、群馬直送の牛肉朴葉焼きや炭火焼が、齋藤さんのお勧めメニューです。
「絶えず研究し、お客様に対しての心遣いを忘れないことが大事です」とおっしゃった齋藤さん。新道亭の新たなる時代を引き継いだ料理長、その料理とサービスが今後どのように変化を遂げていくのか、本当に愉しみです。

3カ所それぞれのスペースや土壌に合った
野菜を栽培し、2店舗の料理に使用。

 100年近く、座間一家がつづけてきた新道亭は、1995年、老朽化した旅館をビルに建て替えることになりました。その際、1階に日本料理店「新道亭」とイタリア料理店「ラ・ベルデ」をオープンさせました。
 この2店舗で使う自家製野菜の世話をしているのは、ラ・ベルデのオーナーシェフであり、座間家5代目の座間太一さんです。
 野菜を育てているのは3カ所。
 近場は店のそばの路地裏にあり、現在育てているのは、たらの芽、大根、バジル、落花生、トレビス、サラダ春菊、菜の花、満願寺とうがらし、冬瓜など実に多数。またラ・ベルデの店舗前でもイタリアンに使うハーブを30種類ほど育てており、毎日必要な分だけ摘んでいるのだとか。
 中間地点の畑は葉山にあって、200坪ほどの土地で白菜やブロッコリーを栽培中。太一さんはここも毎日通っているそう。
 そして一番遠いのが津久井湖のほとりで、専業農家を営んでいる親戚の畑の一角を借りていて、ニンニクなどを育てていますが、こちらも毎週月曜日に通っています。
「当然ですが無農薬、有機栽培なので、穴だらけだったりするんだけど、健康だしおいしいよ」と太一さんは顔をほころばせます。「だいたいオレの友達って、定年したあとに野菜づくりを始めたオジサンたちばっかりなんだよね。野菜の話で盛り上がるったら」
 ラ・ベルデを始めたと同時に漁師に弟子入りし、定置網漁、刺し網、素潜り、覗き突き、蛸籠、ワカメの養殖など一通り学んで、週に3回は漁に出かけるという生活を8年も続けた太一さん。漁にのめり込んだのと同じような情熱を、いまは野菜づくりに向けているのは間違いありません。

(レポート: k.hori/2010-10-15)
神奈川県の農家レストラン「日本料理 新道亭」メニュー
上からランチメニューの海鮮ちらし(950円/味噌汁、小鉢付き)、大海老天丼(1,250円)、ディナーメニューの鎌倉野菜の蒸し物(700円)。
「冬に向けて料理も大幅に変わります。ぜひいらして、地場の魚と野菜を楽しんでください」と齋藤料理長。
昭和6年、国鉄逗子駅前にあった食堂「新道亭」の貴重な写真。
ミント、オクラ、満願寺とうがらし、トマトなど、店の近くの路地裏で栽培。冬瓜は本来は地面に這って生るものだが、場所が狭いためにフェンスに蔓を巻き付け、吊るしてある。