目指したのは“町の食堂”。
手頃な価格と本物の味でリピーター続出。

 仙台駅から常磐線に乗り換え、のんびりと穏やかな自然風景を横目に約25分。逢隈駅に到着すると、店主の南部ひろみさんが車で出迎えにきてくれていました。明るくて優しい雰囲気の南部さんの人となりは、そのまま店にも反映されていて、自宅を開放したレストランはまるで田舎の祖父母の立派な家に遊びにきたかのような赴きです。
 メニューはランチのみで700~1,580円。自家栽培の野菜や米、近海の荒浜で獲れた魚など、徹底して地場産にこだわり、南部さん自らが県内外でセレクトした器でもてなしてくれます。本日は旬菜館の4大季節料理のうちの1つ、「はらこめし定食」をいただきました。
 はらこめしは、鮭のだし汁でふっくらと炊き上げた風味豊かなご飯に、肉厚な鮭と「はらこ(イクラ)」がこれでもかというくらいたっぷりと載せられています。まさに、秋の味覚!という感じです。きのこのとろろ煮やごぼうのつくね焼きも、野菜の味が口の中にふんわりと広がって、しみじみとおいしい。 最後に出されたコーヒーと自家製の荏胡麻クッキーをゆっくりといただいていると、幸福感がじんわりと身体に広がっていきます。
 お店がオープンして10年が過ぎましたが、当初から南部さんがこだわっていたのは、「ヘルシーな郷土料理、おいしい宮城米、バランスの取れた献立を手頃な価格で提供すること」でした。
「その頃の農家レストランはどこも高くて予約制だったんですよ。でもそれだと1回来て終わってしまうでしょう。だったら私は“町の食堂”でいいと思った。食堂として値段を抑えて、何回もリピーターとして来ていただいたほうが、人数も売上も読めないけれども、気は楽だと思った。実際読めなくて大変ですけどね」と笑う南部さん。
 その想いがきちんと伝わっているのでしょう、普段は仙台圏内から、春と秋の行楽シーズンには季節料理を食べに他県から来てくださる方が大勢いるそうです。確かにはらこめしを食べたら、残りのほっきめし、しゃこめし、あなごめしも食べてみたい!という気持ちになるのは必然でしょう。

農業を営む夫の両親の高齢化に伴い、
考えついたのが農産加工とレストラン。

 南部さんが店を始めたきっかけは、農家を営んでいた夫の両親の高齢化でした。専業主婦兼、時々農家も手伝うという日々を送っていた南部さんにとって、50歳を手前に本格的に農業をやるという選択肢は考えられなかった。そこで考えたのが、農産加工でした。
「夫の両親の野菜や米でお惣菜やお弁当を作って直売所に出すことはできると思ったんですよね。それで惣菜業と菓子製造業の免許を取得したら、保健所の職員に、『飲食店営業の免許も取ったらいいのに』と言われたんです」。
 それまでサービス業などやったこともなかったので、まったくその気はなかったのですが、そんな南部さんの背中を後押ししたのが、サラリーマンのご主人でした。「やってやれないことはないし、ダメだったらやめればいいじゃないか」と言ったご主人、口だけの応援ではなく、毎日帰宅しては魚をおろしたり貝を剥いだりなどの料理の下ごしらえをしてくれるそうです。
「サラリーマンといっても時間の融通がわりにきくんですけれど、日々苦もなくやっているところを見ると、おそらくジッとしていられないタイプなんでしょうね(笑)」
 そんなわけで、下ごしらえは夫の手助けがあり、メニューや味を決めるのは南部さん、実際の料理については5人のパートタイマーを雇っているそうです。
「私はとても恵まれていたと思います。県のアドバイスも、夫のサポートもあったし、働いてくれるスタッフもいた。私ひとりじゃ絶対にできなかったと思う。ありがたいですよね」

レストラン、イベント、直売所が
旬菜館の3本の柱。

 9月末から10月末までの週末、仙台市勾当台公園市民広場で開催される収穫祭のイベントでは、はらこめし弁当、栗おこわ、杵つき三食餅、しそ巻き、ラッキョウ漬け、スイートポテト、新米など、毎年大量の品を販売します。また土日なく毎朝、近所の直売所で品物を販売しています。つまり、レストラン、イベント、直売所の3本柱が、南部さんの仕事なのです。
「さっきも言いましたが、始めたのが50歳目前だったんですよ。当然、そのような年齢で外での仕事はない。それなら自分で職場を作ろうって思った。自分の仕事ができて、それが収入に繋がる、そういうプラス思考でやってみたらできるんじゃないかなって」
 現在のほうが、専業主婦の時代より忙しいけれど、とても楽しいそうです。やはり「自分で考えながらやる仕事の方が、一日が早い」のだとか。働くことにおいて目標や夢というのは大事なのだなと、あらためて思わされます。
 つい最近までは農家の奥様方が研修に来て、「私もレストランをやってみたいのですが、どうしたらいいですか」とよくアドバイスを求められたそうです。南部さんの答えは「レストランだけではなく、何か別なものも一緒にしなきゃダメ」。その人なりの3本の柱がないと厳しい――、10年続けてきた経営者の重みのある言葉です。
 最近嬉しかったのは、県の職員に「南部さんは亘理町に貢献しています。だって5人も雇用しているから」と言われたこと。ずっと「自分ひとりではできなかった」と思っていたけれど、自分は雇用を生んでいる立場でもあるんだ、と気づかされました。「ただ、私が経営者で雇用する側だというのがいいんだと思います。これを近所の仲良しグループで共同出資や共同母体でやっていたら、続いていなかったでしょうね」
 そして、もう一つ続けて来られた理由が、やはりお客様の「おいしかった」という言葉。お膳がすべて完食だと本当に嬉しいそう。
 取材を終えて、11時のランチオープン。早速2組のお客様がいらっしゃいました。軽口を叩きながら楽しそうに会話を交わしている南部さんと常連さんの明るい声が、この店が地域の顔として存在している理由を物語っていました。

(レポート: k.hori/2010-11-10)
はらこめし定食(1,260円)。取材当日の内容は、はらこめし、なめこ汁、ごぼうのつくね焼き、きのこのとろろ煮、ほうれん草のお浸しとたくあん漬け、梨のゼリー。
コーヒー(サービス)と荏胡麻のクッキー。デザートにはイチジク、かぼちゃ、エンゼル(ココナッツ風味の卵白シフォン)のシフォンケーキ各210円、豆腐のレアチーズケーキ157円などがある。
ラッキョウの酢漬け(左)、イチジクの甘露煮(中上)、スイートポテト(右)は各525円、ゆず茶(中下)は315円で販売。
「料理は、特別意識したことはなかったけれど、やはりもともと好きだったんでしょうね。おいしかったとお客様に喜んでもらえると、続けてきてよかったとつくづく思います」と南部さん。
自宅の洋室と和室を開放しており、テーブル席と座敷席を選べる。飾り棚には季節の飾り付けがされていて、ウェルカムな雰囲気が漂う。