小粋で洒落た空間は
趣味の良い若夫婦の小さな城。

 岐阜県可児川駅から歩いてほどなく、木々と畑に囲まれた四角い2階建ての建物が見えてきます。2009年5月にオープンしたばかりのカフェ「リトルムッシュ」。曽我宜充(よしみつ)さん、未歩さんご夫婦がそろって温かく迎えてくれました。
 昭和30年代に建てられた一軒家を改装し、シンプルかつ趣味の良いインテリアで飾られた店内は、このような小さな町にあって憩いの場所と化しているようです。この日は冷たい雨がそぼ降る冬の一日でしたが、静かな空間にときおり薪のはぜるパチパチという音がして、なんとも言えない幸福な気分になりました。
 いただいたのは「菜園野菜料理の盛り合わせランチ」。ボルロッティ(赤いインゲン豆)と里芋のポタージュスープは、野菜のコクと旨味が上品に感じられる一品。鉄の器に盛られたメインは、朝摘み野菜のサラダ、美濃ヘルシーポークとカシューナッツの蒸し焼き、白菜と赤かぶ、じゃがいものローストなど。こちらも野菜や肉などの素材の良さを活かした、力強くおいしい料理です。オレガノのフォカッチャとクミンシードとレーズンのチャバッタは、宜充さんが毎朝焼かれているそう。見た目も味も大満足のランチでした。
 お客様は、周りが住宅地なこともあって、ランチタイムはほとんどが主婦の方。ときどき高校生のカップルや、小学生がお小遣いを握ってケーキを食べにくることもあるそうです。夜は比較的、男性と女性の組み合わせがけっこう多いのだとか。確かにここはデートにはうってつけでしょう。週末には、近隣の市や、遠くは名古屋や豊橋、浜松からもいらっしゃるそうです。
 店を始めて1年半。「自分が思った以上の反響があったので嬉しいです」と笑顔で言う宜充さん。深い意味はないという店名の「リトルムッシュ」ですが、そこには「大袈裟ではないけれど、小粋で洒落た空間と食事を提供したい」というご夫婦の想いが反映されているようです。

29歳で料理の世界へ。
店のマネージャーの経験がいま役立っている。

「夫婦共働きだったので、子どものころからおやつや簡単な料理は作っていた」という宜充さんですが、大学の法学部を「自分には合わない」と中退し、再度目指した世界は、料理ではなく、なんとデザイン。「手に職をつけたい」と両親を説得して専門学校に入学、卒業後は名古屋のデザイン会社に入り、社長であるデザイナーのもとで印刷物のレイアウト作成や商品の納品など雑用全般を引き受けるアシスタントをしていたそうです。
 しかし、29歳で本格的に料理の世界へ。その理由は「洋服は、デザインはデザイナー、縫製はパタンナー、生地は生地屋さんと関わる人が全員違う。それで、もう少し小さな世界でぜんぶ自分の手でやりたくなったんです」。
 名古屋のカフェや飲食店のアルバイトを経て、本格的なトラットリアで職を見つけました。「営業は夜だけだったので、午前中に出勤してパンを焼いたり、魚をさばいたり、野菜の下ごしらえをしたり。営業中はマネージャーとして働いていました」。わりと厳しい店だったので、下に入った子たちがなかなか続かなくて、それが大変だったとか。「正直、三十を目前に職を変えるのは大変なんだなと感じましたけれど、自分にとってその厳しさは、非常にためになりました」。
 そのトラットリアでは3年ほど働き、地元の可児市に戻った宜充さんは、いったんお金を貯めようと建設会社で1年ちょっと働き、その後県内のイタリア料理店で働きはじめました。2つの店で数字の管理や収支のバランスを学べたのは、現在店を経営する上での素晴らしく良い経験になったそうです。
 未歩さんと出会ったのは、このイタリア料理店で働いていたころ。未歩さんも飲食の接客の仕事をずっとしていて、「彼女のサポートがあればある程度はできるんじゃないかな」と思い、店を始める決心をしました。
 その後はかなりトントン拍子だったようですが、中でもこの物件を借りられたのは、おふたりの幸運さを物語っているのではないでしょうか。「実は僕の実家はすぐそこで、この店の前の通りが小学校の通学路だったんです。そのころからこの建物が好きだった。店をやろうと思ったときにタイミング良くここが空き家になっていて、畑をやれそうな土地もあるし、栗と柿とイチジクの樹もあるし、すごく理想的な場所だと思って、すぐ借りたんです」
 店の雰囲気は二人で考えて、まず建物の外観は基本的に触らず、店内は古さは残しつつ、明るめのトーンのクラシックな感じを目指したのだとか。壁塗りも二人で行い、床板も自分で仕入れて、本格的な施行以外はほとんど自分たちで仕上げたそうです。家具や器の趣味の良さはデザイン出身だったからか、と深く納得してしまいました。

愛情を注いで育てている野菜が
店を支える大事な要素。

 さて、建物を借りて最初にやったのは、実は畑づくり。「限界はあるけれど、自分たちの手で物を作ることは、すごく大切なことだと思って。あとは野菜づくりの行程って、知っているつもりで知らないので、こういう仕事にはそういう知識も必要だと思いました」と宜充さん。
 近所の畑から一輪車で土を運び、苗を植えてみました。最初のほうれん草と人参が残念ながら育たないという苦い経験も経験済み。しかし「僕くらいの年齢の人が仕事をせずに畑をしているのが珍しかったみたい」で、近所の農家出身の方々が手伝ってくれたり、指導してくれたりしたそうです。
 その後、未歩さんが手をかけてくれるようになってから、畑はすごくうまくいきました。「もともと土いじりが好きなんです。生まれたところは畑がなかったので、いまとても楽しい」と未歩さん。いまでは野菜だけでなく、花や庭木の剪定まで担当しています。
「やはり上手に育ったものを最初に土を落として洗うときに、大きな喜びがありますね」と宜充さんが言うことからも、このお店の料理のフレッシュさ、誠実さが感じられることでしょう。

(レポート: k.hori/2010-12-13)
「四角家カフェ リトルムッシュ」メニュー
菜園野菜料理の盛り合わせとパンとスープ。
店主の趣味が隅々まで行き届いた、居心地の良い店内。冬には薪ストーブが目にも温かく、壁際には膝掛けがさりげなく飾られている。
「うちの“こころのキッチン”は、私たちが愛情こめて育てているこの畑です」と未歩さん。現在育っている野菜は、大根、紅芯大根、蕪、白菜、小松菜、キャベツ、紫キャベツ、芽キャベツ、茎ブロッコリー、ルッコラ、レタス、レタサイ、ロメインレタス、タマネギ、ニンニク、カリフラワー、ジャガイモ、ワケギ、黒大根、菜花、ハーブ数種類などで、料理に使う野菜の半分はここでまかなっている。
市販のエプロンだと肩が凝るので、1周年記念として、未歩さんアイデア満載の麻のエプロンを4色作成した。現在は2色のみ販売中(3.800円)。