充実の日替わりランチで
季節をとことん愉しむ。

 山梨市駅から徒歩12分。大通りからちょっと路地を入った住宅街に位置しながら、ランチタイムはオープン前から人が並び、夜も予約必須という噂の「和菜屋 宴」に行ってきました。
 カウンターの一席に座って、待つこと5分。運ばれてきた菜々ランチを見て思わず溜め息が。そこには6種の総菜、洋風オーブン焼き、焚き合わせ、刺身など色あざやかな野菜料理が並べられていました。
 もちろん見た目の充実だけではなく、どの料理もしみじみとおいしい。デミグラスソース、白和え、アーモンド和え、煮物、揚げ物、生と多種多様な味付けや調理法なのに、全体のバランスが絶妙なのです。まさに「春の訪れ」を感じる、豊かな心持ちのするお料理でした。
 肉、魚料理は一切なし、デザートまでもが野菜という、野菜づくしのこのランチコース、なんと毎日来るお客様のために日替わりで用意されているのだとか。もう一つのコース遊々ランチは肉、魚料理も入った松花堂弁当スタイルで、蓋を開けるたびに「わあ」と声があがるそう。季節によっては珍しい川魚の刺身などちょっと変わったものを出すらしく、そちらもおすすめです。
 料理長の中嶋公人さんがこの店を出したのは、いまから11年前。野菜よりは肉や魚が喜ばれるという土地柄で、オープン時から「自分が作った野菜で、しかも創作料理で勝負したい」と思い、その姿勢をずっと守り続けてきました。いまでは野菜志向の多くの女性を魅了して、地元の人気店に。テレビ番組をきっかけに東京や神奈川など県外のお客様も足を伸ばして来てくれるようになった、とたいへん嬉しそうにお話されていました。

修業時代の親方の豊かな発想に、
日本料理の奥深さを知る。

 中嶋さんは山梨県生まれ。高校卒業後に東京の料理専門学校へ1年通い、築地の日本料理店にて3年修行を積みました。
「高校時代は洋菓子に憧れていたんです。パティシエという言葉も一般的ではない時代だったのに」。3年の修行中も実は洋菓子に進んだほうがよかったのではないかと迷う日々もあったのだとか。
 そんな彼が日本料理の奥深さに触れ、とりことなったのは、その日本料理店の総料理長の存在でした。
「親方自身が2年ほど洋菓子を学んだ人だったんです。和食では前菜、お通し、刺身、焼物のあとに箸休めというのを出すのですが、親方は実に発想が豊かな方で、たとえば春には筍やグリンピースでシャーベットやババロアを作ったんですよ。それを見て、本当に感動しましてね」
 洋菓子なら洋菓子しかできないけれど、日本料理であれば箸休めや最後の甘味で洋菓子風なこともできるんだ。そう気づいてからは、日本料理に全身全霊で向き合うこととなりました。
 東京で計4年を過ごしたのち、中嶋さんは帰郷して、山梨県内の日本料理屋を3店舗、計16年勤めあげました。そして独立して「宴」を開いたのです。
「東京で何十年も働いてしまうと、山梨に戻ったときに山梨の人を満足させられないのではと思って、早めに戻りました。山梨の人は味も質も大事だけれども、量も大事。地元の人が何を求めているかは、やはり地元で長くリサーチしないとわかりませんから」
 とはいえ、専門学校時代の同級生や築地時代の修行仲間といまでも連絡を取り合って、情報交換を欠かさないのだとか。
「電車で1時間半の距離であっても、東京の流行がこちらでも流行るのには半年から1年のタイムラグがある」と中嶋さん。その下準備が、都会並みに洗練された料理を下支えしているのだと、深く納得しました。

料理と同じくらいの手間ひまを畑にも。
愛と情熱のこもった甘くておいしい野菜たち。

 さて、“手間ひま”は、料理だけではありません。その畑への情熱は目を見張るものがあります。
 もともと奥様の実家が専業農家で、そこでノウハウを教えてもらいながら、自家製の無農薬野菜を日々育てていらっしゃるそうです。特に土づくりは「野菜の命の源」だとか。
「人も疲れたときにアリナミンとか栄養剤を補給しますよね。畑も同じで、ちゃんと肥料を与え、空気を与え、栄養満点となった土で種まきをすると、甘味がすごく出てくるんです」
 米に鷹の爪を入れておくと虫が来ないように、畑にも唐辛子を蒔くなどの夜盗虫対策も怠りません。
 夏だと、明け方3時50分には畑に行き、7時まで作業をし、それから店に入ってランチの準備をしています。しかも「もっと畑を充実させたい」との想いから、昨年までの週1休みを現在では週2休みに変更し、毎水・木曜日はほとんど1日中畑にいるのだとか。
 そんな愛と情熱を注ぎ込んだ野菜は、「形はいびつだけれども、水分がたっぷりで、とても甘い」とのこと。採れたての新ジャガなどは、皮を向いて千切りにし、ジャガイモそうめんを作ったりすると、お客様に大変喜ばれるそうです。
 店のショップカードには「素材のいのちを守りながら、季節を美しくつたえたいとのぞんでおります」とありました。まさに野菜とは四季折々の季節を心ゆくまで堪能できる食物なのだと、あらためて感じさせてくれるお店でした。

(レポート: k.hori/2011-2-18)
(上)本日の菜菜ランチ(1,050円)。左上から、椎茸、ネギ、豆腐、人参、里芋、サツマイモの洋風オーブン焼き。その下は大根、カブ、カボチャ、芽キャベツの焚き合わせ。右上6つの小皿料理は、ささごぼうのきんぴら、カボチャとピーナツの豆腐、ウグイス菜と人参のアーモンド和え、野菜のおから合え、エリンギと青ネギ、ししとうのフライ、春菊の白和え。中央は菜の花、ラディッシュ、湯葉の刺身。ほか十六穀米、味噌汁、漬け物。(下)ランチにはデザートとコーヒーも付く。本日は白大豆とクリームチーズのフルーツ添え。
店から車で5分の場所に30坪の畑を3区画所有。一度に種まきをすると一度に収穫となってしまうので、20日~1カ月周期で3つの畑を順繰りに回している。現在、べか菜、葉にんじん、こかぶ、二十日大根、芽キャベツ、芽ネギ、春大根がトンネルハウス栽培、路地栽培で育っている。
自家野菜だけのおせち料理。写真は5〜6人前で21,000円。
「幼少時代に食べた田舎の祖母の煮物がおいしくて忘れられない。頭の隅に常にあるその味を、将来的にはお客様にお出ししたい」と中嶋さん