コンセプトは「土から食卓まで」。
完全オープンのワイナリー&農園レストラン。

 信州東部、標高850m。眼下には上田盆地と千曲川、遠くには北アルプスの稜線と、素晴らしい絶景を臨む南西斜面に、ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーはあります。エッセイストであり画家でもある玉村豊男さんが、2004年にオープンしたこの総合施設では、自家農園の野菜やハーブをたくさん使用したおいしい料理と自家製ワインを楽しめます。
 週末は予約必須という「ヴィラデストランチコース」は、温かいカブのスープからスタートしました。「春のお楽しみ前菜」は、温泉卵と山菜、ブロッコリーのクスクス、人参のムースとサラダの3種類。ハーブをたくさん使用したグリーンサラダは、青々しさと野性味が口いっぱいに広がります。
 メインは、信州サーモンや子羊の煮込み、自家製ソーセージなど8種類から選べますが、今回は「春野菜15種のパニエ」をチョイス。カゴ状にして揚げた春巻きの皮にマッシュポテトがたっぷり、そこに人参、カリフラワー、椎茸、フキノトウ、アイスプラントなどの新鮮な野菜がそれぞれ調理されて盛られています。苦み、甘味、酸味など、さまざまな味わいが楽しめる逸品です。
 デザートはババロアとイチゴのゼリーと、ちょっとした焼き菓子。まさに春の訪れを感じさせる、見事なランチコースでした。
 さてこのヴィラデストは、風景の美しさや料理のおいしさだけが魅力ではありません。ユニークなのは、栽培から調理まで「すべてがオープン」であること。オーナーの玉村さんがこのワイナリーを開いたときに考えたアイデアはまさに「土から食卓まで」だったのです。
「入口から厨房に野菜を持ってくるところから見えて、オープンキッチンだから調理も見える。カフェのテラスからは農園やブドウ畑が見渡せるし、室内の窓越しからワイナリーも見える。里山に暮らす僕たちのライフスタイルをぜんぶ見てもらう、というのが僕の考えた基本スタイルでした」
 毎年12月25日から3月半ばまでの休養期間には、次のタームの料理に関しての試行錯誤が繰り広げられます。
「東京の新しいレストランに行ったり、料理の本を買って検討したりしています。去年はシェフとシドニーのレストランを廻りました。料理の世界も日進月歩なので、最新の流行はしっかりおさえつつ、うちらしい料理にアレンジして出そうと考えています」
 基本スタイルを維持しながら、お客様を飽きさせない工夫もする。毎年のこのチャレンジが、長野県の山里に、北は北海道から南は九州まで全国から足を運ばせる原動力になっているのでしょう。

ある計画が頓挫してからの、
58歳での大きな決断。

 玉村さんは91年にこの場所に引っ越してきました。それ以前は軽井沢に8年お住まいだったのですが、奥様が畑をやりたいと言い出して、それにふさわしい場所を探したそうです。
「軽井沢は平らな土地で高低差がないので、今度は上から見下ろすような風景がいいなと。日当りがよくて、南斜面で、標高が700〜900mで、遠くに街が見える。そういうイメージが先行していたものだから、ここだという場所を見つけるのに2年もかかってしまいました(笑)」
 桑山だったこの場所は、格好だけは畑だったものの、誰もここまで登って耕す人がおらず荒れ果てていました。玉村さんは南西斜面の3500坪を買い、何を植えようかと考えたときに「イタリア人やフランス人ならここに絶対にブドウを植えるだろうな」とひらめいて、600坪の敷地にブドウの木を植えたのです。
 それが4、5年後に成木になり、近くの醸造所で自家製ワインにしていたところ、98年に仕事関係でもあったある酒造会社から「国産ワインを作りたい」と言われました。玉村さんは土地を買い足してブドウの木を増やしたり、技術者を養成したりと協力していたのですが、結局、諸事情により酒造会社は撤退。「だったら自分でやってみるか」と決心したのが2002年のことで、翌年秋には酒造に関する免許を取ったそうです。
「58歳で決心して大借金したので、すごいチャレンジだとは言われますが、僕自身はけっこう気楽に考えていたんです。農園を始めてちょうど10年目で、野菜の一部は東京のスーパーやレストランに卸していたし、ブドウの木は植えてしまうとそう簡単にやめられない。だったらワイナリー&カフェレストランを作ってお客さんを呼び込めれば、なんとか成り立つのではないかと」
 カフェレストランが順調にお客様を呼べたおかげで、ワイナリーの赤字も補填でき、また8年目にしてワイナリーの生産と販売自体も安定してきたとのこと。現在では一般のお客様以外に、自治体なども見学にみえるのだとか。しかし玉村さんのアドバイスは「やりたいといってできるものではない」とシビアです。
「個人であればそれぞれユニークなものができると思うけれど、町や村単位でやるとなると、どうしても最大公約数的なものが求められてしまう。それでももしチャレンジしたいのであれば、その土地の風景を活かし、特産物を活かすこと。農地を利用し、環境を整えて、雇用を生み、そこへ来る人が喜んでくれる、そういう循環ができれば、素晴らしい結果になると思います」

サービスも料理も
知り合いをもてなす感覚で。

 玉村さんは今年の1月1日のブログで、フランスの食通として有名なブリア=サヴァランの名著『美味礼賛』から「誰かを食事に招くということは、その人が自分の家にいる間じゅうその幸福を引き受けるということである」という言葉を引用しています。
「うちは高級ホテルでもないし高級レストランでもないから、お客様を捌いたり、または慇懃に接したりする必要はない。うちに来るお客様というのは、ここでゆっくりしたい人、私たちと話がしたい人が多いんです。だから『知り合いが来て、それをもてなす』という感じが大事。スタッフには、『お客様に楽しい時間を過ごしてもらうためには何ができるかだけを考えなさい。そういう想像が常にできる人間になりなさい』と言っています」
 厨房に立つ料理人たちも、採ってきたばかりの野菜の泥の掃除や、サイズが違っていても料理しなくてはならないなどは、ヴィラデストでほとんど初めて経験するそうです。
「今日はトマトが死ぬほど採れたけど、2、3日後にはいっさいないなんてことがザラ。『ここは農家なんだから、あるものを使えばいい』と言うんだけど、1年のサイクルを経験しないと、なかなか難しいようです。たいがい1年目はあたふたして、2年目にサイクルが頭に入って、3年目にやっとうまくできるようになる。そして、そういうことが面白いと思えれば、面白いことは山ほどあるから、仕事も続くんです」
 現在、従業員は40人余り。「大家族ですね」と言うと、玉村さんは「妻とふたりで奥の家に暮らしているんですが、毎晩、『今日は誰が飯食いにくるんだ?』って感じですよ。相撲部屋みたい」と愉快そうに笑いました。温かいアットホームなもてなしと料理が、今年もクリスマスイヴまで続きます。
(レポート: k.hori/2011-3-20)
ヴィラデストランチコース(3,500円)。自社農園や近隣農家の野菜、信州サーモンなど地元の新鮮な食材を活かしたコース料理。
南西向きの斜面に広がるブドウ畑、四季折々の花やハーブが楽しめるガーデン。春の新緑に、夏の実り、秋の収穫から紅葉まで、さまざまな自然を畑やガーデンで楽しめる。
人と自然の営みが生む上質で個性的なワインを、その風景の中で味わう豊かさ。施設と製造工程はカフェからガラス越しで見ることができる。ワイナリーツアー(無料・定員15名)は土日祝日に開催中。
ショップでは、画家でもある玉村豊男氏の絵が描かれた食器、絵はがき、文具、Tシャツなどのオリジナル商品や、自家製ジャムやジュース、焼き菓子、パンや旬の野菜が販売されている。またレストラン階下のギャラリーでは玉村氏の絵画作品が展示販売されており、各種教室なども開催される。
「元気なうちに引退したいんだけど、若い子はみんな『玉さんがいるから』って安心しているみたいなんだよね。危機感がないというか。だから『<玉さんが死んだらどうしたら委員会>を作れ!』と言っているんですよ」と笑う玉村さん。